本文ノート
次の場合は、肩への施術や運動より先に、医療機関での評価を優先します。体を動かしたときに肩・腕・あごに痛みが出て休むと引く、胸の圧迫感や息切れ、冷や汗を伴う(心臓からの関連痛の可能性。強い胸の痛みや冷や汗があれば救急へ)。転倒・事故・けいれん・感電のあとに腕を回せない、肩の形が変わった(骨折・脱臼)。外傷のあとに急な強い痛みと大きな筋力低下がある(急性の腱板断裂)。肩が赤く熱を持ち、発熱して全身の具合が悪い(感染)。がんの既往、原因の分からない体重減少、しこり・腫れ・変形がある(腫瘍)。原因の分からない、はっきりした感覚の低下や筋力の低下がある(神経の病変)1,2。50歳以上で両肩(と腰まわり)の痛みと朝のこわばりが続く場合はリウマチ性多発筋痛症なども考え、頭痛・あごの痛み・見え方の異常を伴えば至急受診します。両手の不器用さや歩きにくさを伴う首の痛みは、首の脊髄の圧迫のサインです。
肩の痛みは、プライマリケアで3番目に多い筋骨格系の訴えです。多くは外傷のない肩のまわりの軟部組織の痛みで、もっとも多い出どころは肩峰下の領域ですが、まれに重い原因が隠れています2。上の枠のサインは、英国のプライマリケア向けの総説が挙げるレッドフラッグにもとづいています1。肩の外から来る痛みとしては、首からの関連痛、心筋の虚血、横隔膜の刺激による関連痛、肺の上部のがんや転移、リウマチ性多発筋痛症が挙げられています1。2026年の総説も重い原因の除外を評価の中心に置き、専門医への紹介は、感染・悪性腫瘍・骨折・脱臼の疑い、大きな機能や神経の脱落、全身性の炎症性疾患を疑わせる所見、続く・悪化する痛みに限るよう勧めています2。仕組みは関連痛、確率での考え方はレッドフラッグ・安全管理で扱います。
重い原因が除外されたあとの初期の対応は、多くの患者で共通しています2。そのため評価の目的は、診断名を一つに決めることより、安全か、痛みは肩から来ているか、肩甲上腕関節の問題か腱板関連の痛みか、どの動きと負荷で症状が変わるかを、順に絞り込むことにあります。プライマリケアの研究では、77%の患者に2つ以上の臨床診断がつきました1。
少し掘り下げる
頸椎・胸椎からの痛みを見分ける
首と肩の痛みは重なりやすく、どちらか一方とは限りません。肩を専門とする各国の理学療法士22人によるデルファイ研究では、「脊椎と肩の問題は共存しうるもので、互いに影響することも、独立していることもある」という考えに、もっとも強い合意が得られました3。首の関与を考える手がかりとしては、症状が肩より遠くに広がる、首の痛みがある・あった、首の動きで症状が変わる、しびれなど神経障害性の痛みを思わせる症状がある、が合意されています3。身体の検査では、頸椎と頸胸椎の自動運動、Spurlingテスト(首を傾けて頭に圧を加え、腕への放散痛が出るかを見る)、脊椎に対して行う症状修正の手技が役立つとされました3。
英国の総説も、首からの関連痛は首の下部と肩甲骨の上の痛みと圧痛として現れ、腕のしびれを伴うことがあるとして、肩の診察で頸椎の可動域も確かめるよう勧めています1。神経根からの痛みは神経障害性疼痛の考え方とつながります。
問診:年齢・経過・夜間痛・既往
年齢は、考える問題の順番を変えます。英国の総説は、腱板の障害は35〜75歳、凍結肩は40〜65歳(中央値50〜55歳)、変形性肩関節症は60歳以上、肩鎖関節の問題は10代〜50歳に多いと整理しています1。
経過は、年齢が高い、女性、初診時の症状が強いか繰り返している、首の痛みを伴う場合によくない傾向があり、発症前の軽い外傷や使いすぎ、急な発症ではよい傾向があると報告されています1。肩峰下の痛みの多くは最小限の介入で十分に回復するとされる一方2、症状が続いたり繰り返したりする人も少なくありません7。凍結肩は3年以上続くこともあり、糖尿病のある人で長引きやすいとされます1。
問診では、安静時と動作時の痛み、夜間の痛みと寝る向きへの影響、首や胸の痛み、外傷や脱臼・不安定感の既往、仕事とスポーツ、全身の症状、糖尿病・がん・心疾患などの既往、服薬を確かめます1。夜間痛は大事な項目ですが、それだけで重い病気と判断せず、がんの既往、原因の分からない体重減少、発熱などと組み合わせて判断します1,2。凍結肩は糖尿病のある人に多く、長い固定のあとにも起こることがあるため、最近の固定の有無も聞きます1。
観察・可動域・筋力
観察では、両肩の腫れ、筋のやせ、変形を比べ、胸鎖関節・肩鎖関節・肩甲上腕関節の圧痛、腫れ、熱感、きしみを確かめます。可動域は自動・他動・抵抗運動を左右で比べ、その組み合わせから問題の場所を考えます1。
| 腱板関連の痛み | 自動運動と抵抗運動で痛み、一部制限されることもあるが、他動運動は痛みを伴っても保たれる。外転70〜120度での痛み(有痛弧)は特異的でも敏感でもないが、あれば腱板の障害の考えを支える1。 |
|---|---|
| 肩甲上腕関節の問題 | 凍結肩や変形性肩関節症。関節の深い痛みがあり、上着を着るなど外旋を使う動作が制限され、自動でも他動でも全方向が制限される1。 |
| 肩鎖関節の問題 | 痛みと圧痛が肩鎖関節に限られ、肘を伸ばして腕を体の前で反対側へ水平に動かすと痛む1。 |
| 首からの関連痛 | 首の下部と肩甲骨の上の痛みと圧痛。首の動きで症状が変わる。肩の動きが制限されることもある1,3。 |
他動の外旋の制限は特に意味のある所見で、他動でも大きく制限されていれば、筋の働きや痛みによる抑えではなく、関節包など関節そのものの問題を考えます1。肩をすくめて腕を挙げる動き(シュラッグサイン)は、凍結肩などの硬さによる障害と腱板の腱障害に対して感度が高いと報告されていますが、メタ解析ができるほどの研究はまだ少ない新しいテストです4。外傷のあとに回旋ができず肩の形が変わっていれば、整復されていない脱臼を疑います1。
筋力では、痛みで力が出ないのか、断裂で力が出ないのかをその場で区別するのは困難で、部分断裂と腱障害のどちらでも抵抗運動で筋力が落ちます1。ドロップアームテスト(外転位から腕をゆっくり下ろす)が、外傷後の急な強い痛みと大きな筋力低下を伴って陽性なら、急性の腱板断裂を疑い、早めに医療機関へつなぎます1。
さらに掘り下げる
整形外科テストを確率で読む
肩の整形外科テストの研究をまとめた系統的レビュー(メタ解析を含む)では、肩峰下インピンジメントに対する主なテストの結果は次の通りでした(尤度比は感度と特異度から計算)4。
| Neerテスト | 感度72%、特異度60%4。陽性尤度比 約1.8、陰性尤度比 約0.47。 |
|---|---|
| Hawkins-Kennedyテスト | 感度79%、特異度59%4。陽性尤度比 約1.9、陰性尤度比 約0.36。 |
| 有痛弧 | 感度53%、特異度76%4。陽性尤度比 約2.2、陰性尤度比 約0.62。 |
陽性尤度比は 感度 ÷(1 − 特異度)、陰性尤度比は(1 − 感度)÷ 特異度 で求めます。陽性尤度比が2前後の検査は、検査前の確率をわずかにしか動かしません。たとえば検査前の見込みを50%とすると、Hawkins-Kennedyテストが陽性なら約66%、陰性なら約26%になります。
このレビューは、どの単独のテストも特定の病変を確定する診断には勧められず、組み合わせても正確さはわずかに上がるだけだと結論し、問診を含めた総合的な診察を重視しています4。一度の研究で高い正確さが報告されたテストが、その後に再現されなかった例もあります4。テストは、仮説を少し強めたり弱めたりする材料として使います。
用語の流れ:インピンジメントから腱板関連の肩の痛みへ
肩峰下の空間が狭くなって腱がはさまれるという「インピンジメント症候群」の説明は広く使われてきましたが、症状の原因と出どころ、確定した診断のつけ方には大きな不確かさが残っています7。2016年には、肩峰下の痛み、腱板の腱障害、症状のある部分断裂・外傷のない全層断裂をまとめて「腱板関連の肩の痛み(rotator cuff related shoulder pain:RCRSP)」と呼ぶことが提案され、これらの状態では段階的な運動療法で手術と少なくとも同等の結果が得られることも示されました7。2026年の総説では、腱板の腱障害や断裂、インピンジメント症候群、肩峰下滑液包炎といった定義のそろわない呼び方より、「肩峰下の痛み(subacromial pain)」が好ましいとされています2。ただし「肩峰下の痛み」の範囲は文献で違い、2016年の提案では腱板関連の肩の痛みに含まれる一つの状態を、2026年の総説では肩峰下の領域から来る痛み全体を指しています。どちらの用語も、画像や単独のテストで構造の診断名を決めきれないことを前提にしています。
肩甲骨の動き(スキャプラ・ディスキネシス)
2013年の国際会議の合意声明は、スキャプラ・ディスキネシスは多くの肩の障害で高い割合で見られるものの、障害を生み出したり悪化させたりする役割ははっきりしておらず、肩の働きを妨げうる要素として見るのが適切だとまとめています5。観察による信頼できる評価の方法があり、肩甲骨の位置と動きを整えるリハビリテーションは、より包括的なプログラムの一部として役立ちうるとされます5。
観察では、腕の挙げ下ろしを数回くり返し、肩甲骨の内側縁や下角の浮き上がりと左右差を見ます。ただし、健康な人でも肩甲骨の動きのばらつきは大きく、痛みのある人に見られる違いが原因か代償かは、横断研究では区別できません(肩関節複合体の成り立ち)。観察の結果は仮説として扱い、次の症状修正の手技で確かめます。
症状を変える手技:肩の症状修正手順(SSMP)
肩の症状修正手順(Shoulder Symptom Modification Procedure:SSMP)は、構造の病変を前提にせず、治療の手がかりを探すために提案された手順です。もっとも痛む動きを決め、胸椎の位置、肩甲骨の位置と動き、上腕骨頭への手技、症状を和らげる手技(首の牽引、テーピングなど)の順に試して、痛みが変わるかを確かめます6。
信頼性の研究の結果は分かれています。26人の患者を2人の理学療法士が別々に評価した研究では、一致の度合いは中等度(κ=0.47)で、著者らは信頼できる検査として勧めるには根拠が足りないと結論しました6。この研究では、その場での痛みの変化は1週後から3か月後の痛みと生活の支障(SPADI)の変化とほとんど関連せず、1週間での痛みの変化は、短期の結果とは強く、3か月後の結果とは弱く関連しました6。ビデオで判定する方法の研究では高い一致が報告されており、方法の違いが一因と考えられています6。症状が変わったことは、痛みの根本の原因を突き止めたことを意味しません。その場の反応は、最初の運動を選ぶための仮説として使い、次回までの変化で確かめます。
胸郭・体幹・下肢まで見る視点
投げる、持ち上げるといった動作では、下肢と体幹で生み出された力が肩へ伝わるため(キネティックチェーンと力の連鎖)、肩の評価に胸郭・体幹・下肢を含める視点があります。競技者では、肩の痛みのある人でほかの部分の働きの違いが報告されてきました8。
競技者ではない人を対象にした系統的レビュー(6つの横断研究、562人、うち肩の痛みのある人282人)では、肩の痛みのある人は、頸椎・胸腰部・股関節の自動の可動域や筋の持久力・筋力が低く、下肢の神経筋の制御にも違いがある可能性が示されました8。ただし根拠の質はとても低く、胸椎の姿勢の結果は一致せず、頸椎の等尺性の筋力には差がありませんでした8。横断研究のため、違いが痛みの原因か結果かも分かりません。
このため、胸郭・体幹・下肢の評価は、痛みの原因を探す検査ではなく、肩に加わる負担の条件や運動で使える体の範囲を知るための評価と位置づけます(頸椎・頸胸椎の自動運動の確認には専門家の合意があります3)。足元からのつながりは足元から胸郭と肩へ、離れた部位どうしの関係はリージョナル・インターデペンデンスで扱います。
セラピストが見るべきこと
| 安全 | 体を動かすと出る肩や腕の痛みと胸の症状、外傷後の変形と回旋の消失、外傷後の急な筋力低下、発熱と赤み、がんの既往と体重減少、原因の分からない神経の脱落1,2。 |
|---|---|
| 首と胸椎 | 肩より遠くへの症状、首の痛みの既往、首の動きでの症状の変化、しびれや灼けるような痛み、頸椎・頸胸椎の自動運動3。 |
| 問診 | 年齢、発症のきっかけと経過、夜間痛と寝る向き、糖尿病と最近の固定、仕事とスポーツ、首の痛みの合併1。 |
| 可動域と筋力 | 自動・他動・抵抗運動の組み合わせ。他動の外旋の制限、有痛弧、腕を体の前で水平に動かしたときの肩鎖関節の痛み、筋のやせ1。 |
| テストと反応 | 単独のテストで決めない4。肩甲骨の観察5と、症状修正の手技で変わった動き6を、仮説として記録する。 |
| 記録の基準 | SPADIなどの質問票、痛みの数値、もっとも痛む動きとその角度を、初回に同じ方法でそろえて記録する6。 |
臨床での使い方
質問票で始まりの状態をそろえる
肩の痛みと生活の支障の変化は、質問票で追えます。SPADIは痛み5項目と生活の支障8項目を0〜100点に換算し、臨床的に意味のある変化はおよそ10点とされています6。時間が限られる場面では、上肢全体の機能を問うDASHの短縮版(QuickDASH、11項目)も使われます。痛みの尺度との組み合わせは痛み評価で扱います。
画像の位置づけ
大きな外傷や、発熱・原因の分からない体重減少・がんの既往などの疑わしい所見がなければ、早い時期の画像検査は勧められていません。構造の異常は症状と一致しないことが多く、方針を変えることはまれで、過剰な診断と治療につながりうるためです2。腱板の部分断裂や全層断裂は症状のない人の画像でもよく見つかり、血液検査やX線はレッドフラッグがある場合に行うものとされています1。
評価から治療へつなぐ
評価の結果は、次のように肩の治療の進め方へつなぎます。
| レッドフラッグがある | 医療機関での評価を優先する。施術や運動を続ける理由を探さない1,2。 |
|---|---|
| 首の関与が強い | 頸椎・胸椎の評価と対応を優先し、肩と首を並行して見る3。 |
| 他動でも外旋が大きく制限される | 凍結肩などを考え、痛みの強さに合わせて負荷を決める。痛みが非常に強い時期に無理に動かすことは、かえって逆効果になりうる1。 |
| 腱板関連の痛み・肩峰下の痛み | 経過の見通しがよいことの説明、症状の緩和と必要に応じた活動の調整から始め、段階的な運動へ進む2,7。 |
| 手技や観察で症状が変わった | 最初に選ぶ運動の手がかりにする。次回までの変化で見直す6。 |
患者説明への変換
肩の痛みは、画像や一つの検査だけでは原因を決めきれないことが多いものです。まず危険なサインがないかを確かめ、どの動きで痛みが変わるかを一緒に調べて、そこから運動の計画を立てていきます。
レッドフラッグの確認は、「念のため、皆さんに同じように確かめています」と前置きし、胸の症状や発熱を聞く理由を「肩の痛みには、肩以外から来るものもあるため」と短く伝えると、患者は答えやすくなります。
テストの結果は、「このテストだけで、腱が切れているかどうかは決まりません。いくつかの所見を合わせて考えます」と伝え、一つの結果に意味を持たせすぎないようにします。手技で痛みが軽くなった場合も、「この方向の動きが、今の肩には負担が少ないようです。次回までの変化で確かめましょう」と、その場の反応を仮説として共有します。
画像の所見がある患者には、症状のない人にもよく見つかる変化であることを伝え、「何ができて、何が困っているか」へ話を移します。回復の時期は約束せず、質問票や痛む動きの記録で変化を一緒に確かめます。
