本文ノート
肩の痛みを診るときに足元まで評価に入れるのは、立って腕を使う動作で、体が足底から肩まで一つの連なりとして働くからです。荷重がかかった状態では、足部・下腿・大腿・骨盤・胸郭・肩甲骨は関節でつながっており、ある体節の向きが変わると、隣の体節の向きや、そこにかかる力の条件が変わりえます(キネティックチェーンと力の連鎖)。足部のバランスの変化が、骨盤、胸郭、肩甲骨、肩へと下から上に伝わるという見方を、上行性の運動連鎖と呼びます。
足元の条件を変えると上の体節の配列が変わることは、実験で示されています。踵骨を外反させると骨盤と胸郭の傾きと回旋が変わり1、足部を回内させると骨盤が前傾します2。そして胸郭の姿勢を変えると、肩甲骨の動き、腕を挙上できる範囲、腕を上げる力が変わります3。足元から肩までは、こうした変化のつながりとして読むことができます。
根拠は三つの段階に分けて読みます。一つ目は、足部の条件を実験的に変えると骨盤や胸郭の配列が変わる、胸椎の姿勢を変えると肩甲骨の動きや挙上の範囲が変わる、という実験で示された現象です1,2,3。二つ目は、下肢・体幹の機能や痛みと、肩の痛みとの関連が報告されていることで、確実性は低く、因果の向きは分かりません6,7。三つ目は、投球などのオーバーヘッド動作で下肢と体幹が生んだ力が肩へ伝わるという臨床のモデルです5。
臨床では、この連鎖を原因の説明ではなく、仮説の検証に使います。立ち方、靴、足元の支えといった条件を一つ変えたとき、骨盤・胸郭・肩甲骨・肩の動きや症状がどう反応するかを観察し、記録します。
少し掘り下げる
足部から骨盤へ
足部の回内と骨盤の関係は、足元と腰痛でも扱いました。健常者35名を床の上と、10度・15度・20度の楔の上に20秒立たせ、足部を実験的に回内させた研究では、下腿の内旋、股関節の内旋、骨盤前傾が統計的に有意に増えました。どの高さでも、楔の角度を一段変えた条件どうしで配列がよく相関していました2。両脚で立った状態で、足部にかかる力の条件が骨盤の配列まで変えうることを示した結果です。距骨下関節の軸が斜めに走るため、荷重下で踵骨が外反すると下腿が内旋する、という連動がこの連鎖の入口になります。
足部から胸郭へ
この連鎖が胸郭まで届くかを調べたのが、Tateuchi らの研究です。健常男性28名に、床の上と、踵骨を5度・10度外反させる楔の上で片脚立ちをしてもらい、股関節・骨盤・胸郭の角度を三次元で測りました。踵骨を外反させると、股関節の屈曲と内旋、骨盤前傾、立脚側への胸郭の側方傾斜と回旋が統計的に有意に増えました。骨盤の立脚側への側方傾斜は、5度では床の上より減り、10度では5度より増えるという、一方向ではない変化を示しました。また、アーチが高い人ほど、10度の外反での胸郭の回旋の変化が小さい傾向がありました(r = −0.528)1。著者らは、踵骨の外反は股関節と骨盤を介して胸郭の三次元の動きに影響すると結論しています1。
この結果から言えるのは、片脚で立つ課題で足部の条件を変えると、胸郭の向きまで変わる、ということです。同じ外反でも、アーチの高さによって上へ伝わる量が違う可能性も示されており、足の形を記録しておく意味があります。
胸郭から肩甲骨と肩へ
胸郭の姿勢が肩甲骨の動きを変えることは、より直接に調べられています。健常者34名に、背筋を伸ばした座位と背中を丸めた座位で、腕を肩甲骨面で挙上してもらった研究では、丸めた座位で、0〜90度の範囲で肩甲骨がより挙上し、90度から最大挙上までの範囲で肩甲骨の後傾が小さくなりました。自動での外転の範囲は平均23.6度(標準偏差10.7度)小さく、腕を水平に上げた位置での等尺性の外転の力は16.2%低下しました3。胸郭の成り立ちは胸郭の成り立ち、肩甲骨と上腕骨の協調は肩関節複合体の成り立ちで扱います。
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姿勢が動きを変えることと、痛みの原因であることは別
胸椎の姿勢で挙上の範囲が変わることと、胸椎の後弯が肩の痛みの原因であることは、別の問いです。10の研究を集めた系統的レビューでは、肩の痛みがある人とない人のあいだで胸椎後弯の大きさに差がないという中等度の根拠があり、後弯は肩の痛みの発生の重要な要因ではない可能性が示されました。一方、背筋を伸ばした姿勢で最大挙上の範囲が大きいことには強い証拠がありましたが、それは1回の測定で調べた研究にもとづき、長期の臨床的な意味は分かっていません4。足元から胸郭への連鎖についても、同じ区別が必要です。配列が変わることと、症状や生活の困りごとが変わることのあいだには、組織の感受性、神経系の処理、活動量、不安など多くの段階があります。
投球のキネティックチェーン
投げる、打つ、サーブするといったオーバーヘッド動作では、下肢と体幹が力と運動を生み、それが肩・肘・手へ順に伝わります。Kibler らの総説は、投球を、課題に必要な力を生み、伝え、制御する体節の連なりとして捉え、その要所(ノード)を観察する方法を示しました。連鎖のどこかで起きる力学の乱れ(パソメカニクス)が肩の障害や成績の低下に関わり、評価と治療は肩だけでなく連鎖全体を対象にすべきだと述べています5。生体力学の知見にもとづく総説で、臨床で連鎖のどこを観察するかの枠組みとして使えます。
下肢・体幹と肩の痛みの関連
関連を調べた研究は、確実性の低いものが中心です。オーバーヘッド競技の選手を対象にした65の観察研究をまとめた系統的レビューでは、体幹や下肢の筋力・持久力・パワー・跳躍・バランスと、肩の痛みや投球の成績のあいだに関連がないことが、低い〜非常に低い確実性で示されました。一方、肩の痛みのある選手は、体幹の安定性と持久力のテストの成績が低い結果でした。投球の成績が高い選手では、跳躍・パワー・膝を伸ばす筋力の成績がよいという関連も報告されていますが、これは肩の痛みとの関係とは別の話です6。別の系統的レビューでは、肩の痛みがある選手は、腰痛(オッズ比5.51)、股関節痛(4.32)、膝の痛み(3.03)、足首・足部の痛み(2.84)を併せ持つことが多いと報告されましたが、確実性は非常に低い〜低いとされています7。どちらも観察研究なので、下肢の問題が肩の痛みを起こすのか、肩の痛みが動き方を変えるのか、練習量のような共通の要因で両方が起きるのかは区別できません。
セラピストが見るべきこと
| 肩そのもの | 先に肩の評価を行い、痛む動作と角度、筋力、夜間痛、レッドフラッグを確認する。足元の評価は、その後に加える。 |
|---|---|
| 足部の姿勢 | FPI-6 などで立位の足部の姿勢を記録する。静止した姿勢が歩行中の足部の動きを説明できる範囲は限られる8。 |
| 片脚立ち | 左右の片脚立ちで、足部の回内・回外、骨盤の傾き、胸郭の傾きと回旋、肩の高さがどう組み合わさるかを観察する1。 |
| 胸郭の向き | 立位と座位で、胸郭がどちらに傾き、回旋しているか、呼吸で胸郭がどう動くかを見る(胸郭の成り立ち、チェストグリッピングとバックグリッピング)。 |
| 肩甲骨と挙上 | 腕を上げる途中で、肩甲骨の挙上と後傾、胸椎の伸展、腰の反りがどう組み合わさるかを見る3。 |
| 条件を変えたときの反応 | 足幅、立ち方、靴、足元の支えを一つずつ変え、挙上の範囲、痛みが出る角度、肩甲骨の動き、胸郭の向きを同じ方法で比べる。 |
| 競技と既往 | オーバーヘッド競技の選手では、下肢と体幹の痛みの既往、練習量の変化を聴取する7。 |
臨床での使い方
評価の順番
足元から評価を始めると、肩の症状そのものの確認が後回しになります。まず肩の痛みの経過、痛む動作と角度、夜間痛、筋力、受診が必要なサインを確認し(肩の評価の進め方)、そのうえで、立って腕を使う場面で症状が変わる患者に、足元を条件として加えます。
足部の姿勢を記録する
Foot Posture Index(FPI-6)は、距骨頭の触診、外果の上下の弯曲、踵骨の前額面の傾き、距舟関節部の膨らみ、内側縦アーチの形、後足部に対する前足部の外転・内転の6項目を、それぞれ−2〜+2で採点します。開発の研究では、36の候補から6項目に絞られ、最終版は静止立位の足部の姿勢のばらつきの64%、歩行の立脚中期の姿勢の41%を説明しました8。立位の形を記録するには使えますが、歩行や片脚立ちでの足部の動きは別に観察します。足部の形と働きの基礎は足部アーチで扱います。
片脚立ちで連鎖を観察する
片脚立ちは、足部から胸郭までの連鎖を一度に観察できる課題です1。左右それぞれで、足部が回内・回外のどちらへ倒れるか、骨盤が立脚側・遊脚側のどちらへ傾くか、胸郭がどちらへ傾き回旋するか、肩の高さがどう変わるかを見ます。そのまま腕を挙上してもらい、両脚立ちと比べて挙上の範囲や痛みの出る角度が変わるかを確かめます。左右差があっても、それだけで肩の痛みの原因とは考えません。
条件を変えて、肩の反応を見る
立ち方(足幅、足の向き、荷重の位置)、靴(踵の保持、靴底のすり減り)、足元の支え(インソールなど)を一つずつ変え、肩の挙上の範囲、痛みが出る角度、肩甲骨の動き、胸郭の向きを、同じ方法で比べます(靴選びの力学)。その場で変化が出たら、どの条件で何が変わったかを記録し、数日から数週の生活の中でも変化が続くかを確かめます。変化がなければ、その結果も次の条件を選ぶ情報として扱います。肩の治療の中心は運動療法であり(肩の治療の進め方)、足元はその計画の中で確かめる条件の一つです。
患者説明への変換
立って腕を使うとき、体は足元から肩までつながって動きます。足元の条件を変えると、骨盤や胸、肩甲骨の動きが変わります。
患者には、足元を見る理由を先に伝えます。「肩を確かめたうえで、立って腕を使うときの土台として、足元と胸の向きも見ます」と話すと、肩の痛みを否定しているのではないことが伝わります。
条件を変えて試すときは、分かっていることと分かっていないことを分けて伝えます。「足元の条件で胸や骨盤の向きが変わることは、実験で分かっています。立ち方や靴を変えたときに、腕の上がり方や痛みがどう変わるかを一緒に確かめましょう」と伝えます。結果は約束せず、変化を一緒に記録します。
言い換え
足が倒れているから肩が痛い。足元を整えれば肩も良くなる。猫背が肩の痛みの原因です。
体は足元から肩までつながって動いています。条件を一つずつ変えて、肩の動きや痛みがどう反応するかを一緒に確かめましょう。
