本文ノート
関連痛は、痛みの発生源とは別の、離れた部位に感じられる痛みです。患者は当然、痛い場所を原因と考えます。膝が痛ければ膝、腰が痛ければ腰、足裏が痛ければ足裏に問題があると感じます。その感覚は大切な情報であり、臨床では再現性、動作との関係、安全サインと合わせて読みます。
腰から脚にかけての痛みでは、言葉を区別しておくと推論が整理されます1。
- 体性関連痛:椎間関節、椎間板、仙腸関節、筋などの深部組織が発生源で、その組織とは別の神経が支配する部位に感じる痛みです。神経根の刺激は伴いません。鈍い、重い、うずく痛みで、境界があいまいです1,3。
- 神経根性疼痛:神経根や後根神経節で生じる異所性発火による痛みです。電撃的で、細い帯状に脚へ走ります1。
- 神経根障害(ラディキュロパシー):神経根の伝導が障害されて起こる感覚低下、筋力低下、反射の低下などの神経学的所見です。痛みそのものではなく、神経根性疼痛と同時に起こることも、単独で起こることもあります1。
この区別が大切なのは、「脚に痛みがある=神経が圧迫されている」とは限らないからです。体性関連痛はデルマトームに沿わず、神経学的な所見を伴いません3。一方で、神経根性疼痛や神経根障害がある場合は、筋力低下の進行や排尿排便の変化に注意が必要になります(神経障害性疼痛、レッドフラッグ)。
関連痛にはもう一つの大きな群、内臓関連痛があります。内臓の痛みは、場所がはっきりせず広がりやすく、体の表面の部位に関連痛として現れ、自律神経の反応や強い情動を伴いやすいという特徴があります7。心臓の虚血による左肩や腕、顎の痛み、横隔膜や胆嚢の問題による右肩の痛み、腎臓や尿管の問題による脇腹から鼠径部の痛みは、よく知られた例です。筋骨格系の痛みに見えても、内臓や重い疾患が背景にある可能性を考えることは、関連痛の知識の最も重要な使い道です8。
少し掘り下げる
関節ごとの関連痛のデータ
関連痛の範囲は、関節に注射や電気刺激を加えて痛みを再現する研究で調べられてきました。
- 腰椎の椎間関節:L1/2からL5/S1までの椎間関節と脊髄神経後枝の内側枝を刺激した研究では、どの高位でも関連痛の分布は似ており、高位の間の重なりも大きいものでした4。痛みの地図から、どの高位が発生源かを特定することは難しいことを示しています。
- 股関節:症状のある股関節と臨床的に判断され、透視下で股関節内注射を受けた51人の痛みの分布を調べた研究では、殿部が71%と最も多く、大腿57%、鼠径部55%、膝より遠位22%、足部6%でした5。股関節の問題は、教科書的な鼠径部だけでなく、殿部や下腿、まれに足部の痛みとしても現れます。
- 頸椎の椎間関節:健康なボランティアの頸椎椎間関節を刺激した研究では、高位ごとに首から肩、肩甲帯にかけての特徴的な範囲に痛みが出ました6。
腰椎由来の関連痛は、殿部と脚に最も多く現れます3。ただし、こうした分布のパターンは患者や病態によって一貫せず、境界ははっきりしないものの中心となる範囲はある、とまとめられています3。
筋からの関連痛
筋に高張食塩水を注入すると、局所の痛みに続いて離れた部位に関連痛が生じることが、1930年代から実験的に示されてきました2,3。筋の関連痛は局所の痛みがある程度続いた後に現れ、局所の痛みが強いほど出やすく、範囲も広がる傾向があります2,3。慢性の筋骨格系疼痛のある人では、同じ刺激でも関連痛の範囲が広いことが報告されており、中枢の興奮性の高まりとの関係が考えられています2。
さらに掘り下げる
収束投射
関連痛の仕組みとして、最も広く受け入れられているのが収束投射の考え方です3。脊髄後角では、皮膚からの入力と、筋・関節・内臓などの深部からの入力が、同じ二次ニューロンに集まります。脳はふだん、皮膚からの入力をよく経験しているため、深部からの信号を「皮膚の側から来た」と解釈しやすくなります。この説明は「混線した電話回線」にたとえられてきました3。
これに加えて、強い深部入力によって、ふだんは働いていない後角のシナプス結合が働き出し、関連痛の範囲が広がるという、中枢性感作に近い説明もあります2,3。また、1本の感覚線維が枝分かれして、発生源と関連痛の部位の両方に分布しているという説明(二分枝線維説)も提案されています3。いずれも一部の現象を説明するもので、関連痛のすべてを一つの仕組みで説明できるわけではありません。
関連痛の部位に起こる変化
関連痛の部位では、感覚の過敏や鈍さ、二次性痛覚過敏、皮膚や皮下組織の栄養的な変化が見られることがあります3。関連痛の部位を押して痛いからといって、そこが発生源とは限らないということです。痛い場所の局所治療で一時的に楽になっても、発生源が別にある可能性は残ります。
内臓の痛みの特徴
内臓は、切る、焼くといった刺激よりも、膨らませる(伸展)、炎症、虚血に反応して痛みを生みます7。内臓からの入力は脊髄に入る線維の数が少なく、広い範囲の脊髄分節にまたがって入るため、場所がはっきりしない痛みになりやすいと考えられています7。
セラピストが見るべきこと
| まず確認 | 発症のきっかけ、広がり方、しびれ、発熱・体重減少・強い倦怠感などの全身症状、夜間の安静時痛、排尿排便の変化。 |
|---|---|
| 機械的な再現性 | 痛い場所への刺激だけでなく、隣接関節、脊柱、姿勢、歩行で痛みが変わるか。動きや負荷でまったく変わらない痛みは、別の発生源を考える。 |
| 痛みの質と分布 | 鈍く境界があいまい(体性関連痛)か、電撃的で細い帯状(神経根性疼痛)か。デルマトームに沿うか。 |
| 神経学的所見 | 同じ範囲の感覚低下、筋力低下、反射の変化があるか(神経根障害)。 |
| 内臓との連動 | 食事、呼吸、排便、排尿、月経、運動負荷(息切れ・胸の圧迫感)と痛みが連動していないか。 |
| 関連する項目 | レッドフラッグ、腰椎、股関節。 |
臨床での使い方
局所と周辺を分けて評価する
関連痛を考える時は、痛い場所の局所評価と、周辺からの評価を分けて進めます。局所の圧痛、腫脹、熱感、動作時痛を確認し、次に腰椎、股関節、足部、神経症状など、症状に応じて範囲を広げます。局所を見ないまま「原因は別の場所」と言うと、患者は自分の痛みを軽く扱われたように感じます。反対に、局所だけに閉じると見落としが増えます。
発生源の仮説を確かめる
股関節の可動域検査で、いつもの殿部や大腿の痛みが再現されるか。腰椎の反復運動で脚の痛みの範囲が変わるか。痛みの再現と、条件を変えた時の範囲の変化は、発生源の仮説を立てる手がかりになります。ただし研究で用いられる診断ブロック(局所麻酔での確認)のような精度はなく、仮説として扱います3,4。
内臓由来を見落とさない
動きや負荷で痛みがまったく変わらない、食事や呼吸、排泄と連動する、全身症状がある、という場合は、筋骨格系の評価を続ける前に医療機関での評価を勧めます。英国のガイドラインも、腰痛の診察では他の診断の可能性を考え、がん、感染、外傷、炎症性疾患などの特定の原因を除外するよう求めています8。
患者説明への変換
痛い場所は大切な情報です。ただ、痛みが出ている場所だけが原因とは限りません。周辺の関節の動きや神経の症状、体全体のサインも合わせて確認します。
患者には、「痛い場所を見ない」という印象を与えないことが大切です。「まず痛い場所を確認します。そのうえで、そこに負担をかけている別の場所や、神経の症状がないかも見ます」と伝えると、評価の範囲を広げる理由が伝わります。
股関節や腰が発生源として疑われる時は、「体の深い所の痛みは、脳がどこから来たのかを区別しにくく、離れた場所に痛みとして感じることがあります。お尻や太ももの痛みが股関節から来ていることもあります」と説明できます。関連痛を知ることは、痛みを複雑にするためではなく、見落としを減らすための安全策です。
