本文ノート
組織が傷つくと、体は元の組織をそのまま戻すのではなく、いくつかの段階を重ねて組織を作り直します。腱と靭帯の治癒は、出血と血の塊の形成から始まる炎症期、線維芽細胞が増えて新しい基質を急いで作る増殖期、その基質を並べ直して強くするリモデリング期の三つに分けて説明されます1。三つの段階ははっきり区切られるものではなく、重なりながら進みます。
| 止血・炎症期 | 受傷の直後から。傷ついた血管で血の塊(凝血塊)ができ、血小板と細胞が成長因子(TGF-β、IGF-I、PDGF)を出して炎症を起こす。好中球が集まり、マクロファージが壊れた組織を取り除く。血の塊は、あとから来る細胞の足場になる1。 |
|---|---|
| 増殖期 | 受傷からおよそ2日で始まる。線維芽細胞が集まって増え、基質が広がり、細胞の多い線維と血管に富む瘢痕が作られる。新しい血管が作られ、酸素を必要とするコラーゲンの合成を支える1。 |
| 成熟・リモデリング期 | 腱ではおよそ2週から始まり、増殖期と重なる。細胞が減って線維が増え、腱の細胞とコラーゲン線維が力のかかる向きに並ぶ。Ⅲ型コラーゲンが分解され、架橋が多く引っ張りに強いⅠ型に置き換わる。この過程は数か月から年の単位で続く1。 |
ここで大事なのは、作り直された組織が、多くの場合元の組織と同じにはならないことです。腱では、リモデリングが続いても、新しくできた組織は元の腱の力学的・生化学的な性質や細かい構造を持たないとされています1。治り方は組織によっても大きく違います。筋は幹細胞による再生の力を持ち2、骨は損傷の前の組成・構造・力学的な働きを取り戻す、本当の意味での再生に近い治り方をします4。一方、血管のない関節軟骨は、自分で治る力が限られています5。
臨床では、この知識を二つの判断に使います。いまの時期にどのくらいの負荷が組織にとって適切か、そして痛みの経過と組織の強さの経過をどう分けて考えるかです。痛みが引いた時期に組織が元の負荷に耐えられるとは限らず、反対に、組織の治癒が進んだあとも痛みが続くことがあります。
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炎症は修復の始まり
炎症は、治癒を妨げるものではなく、修復を始める過程です。凝血塊の中の血小板と細胞が出す成長因子が炎症を起こし、好中球を呼び寄せ、好中球がマクロファージを働かせて壊れた組織を取り除きます1。マクロファージには、炎症を進めるM1型と、炎症を鎮めて修復を進めるM2型があり、炎症が収まるにつれてM1型からM2型へ移ります1,2。筋では、M2型が受傷の2〜4日後から働き、新しい筋管の形成を助けます2。
骨の治癒の研究では、受傷直後の急性炎症の時期にTNFとIL-6が再生に必要な細胞を呼び寄せ、これらがまったくない状態では骨を作る幹細胞の分化が遅れることが、動物の実験で示されています。一方、細菌の感染のように炎症が収まらないと、治癒がうまくいかなくなります4。炎症は「起こること」も「収まること」も必要だと考えられます。
組織ごとの違い
| 筋 | 血流の回復が再生に欠かせない。筋線維は分裂できず、筋線維と基底膜のあいだの幹細胞(サテライト細胞)が修復を担う。最初の数日に筋線維の壊死と炎症が起こり、再生は最初の4〜5日のうちに始まり、2週でピークを迎え、3〜4週にかけて落ち着く。新しい神経筋接合部は2〜3週のうちに見られる2。 |
|---|---|
| 腱 | 瘢痕を作って治り、リモデリングは数か月から年の単位で続く。新しい組織は元の腱の性質を持たない。腱板のように血流の乏しい腱は、一般に治る力が乏しい1。 |
| 靭帯 | 血流のある関節の外の靭帯(内側側副靭帯など)は瘢痕を作って治り、血流の乏しい関節の中の靭帯(前十字靭帯など)は一般に治る力が乏しい1。足関節捻挫では、靭帯の治癒に少なくとも6週から3か月かかる3。 |
| 骨 | 損傷の前の組成・構造・力学的な働きを取り戻す、再生に近い治り方をする。軟骨の仮骨と新しい骨・血管が作られる同化の時期のあと、仮骨が元の皮質骨へ作り直される長い時期が続く。骨折のおよそ10%は通常どおりには治らない4。 |
| 関節軟骨 | 血管・リンパ管・神経がなく、栄養は関節液からの拡散で届く。軟骨細胞は体積のおよそ2%で増える力が限られ、自分で治る力が限られる。関節を動かさないと軟骨の変性が起こる5。 |
違いを分ける大きな要因は、血流と、組織の中で働ける細胞です。筋では血流の回復が再生の最初のサインの一つで、血流が戻らないと再生は不完全になり、線維化が強く起こります。肉ばなれのような小さな損傷は自然に治る一方、大きな損傷では線維性の瘢痕が筋の働きの低下や拘縮、長く続く痛みにつながることがあります2。前距腓靭帯の上の束が関節の中にあることから治りにくさを考える仮説(前距腓靭帯の成り立ち)も、血流と治り方の関係の見方とつながります。
靭帯の「治った」の中身にも注意が必要です。足関節捻挫の無作為化試験を集めた系統的レビュー(7研究)では、6週から1年の時点でも、検査でのゆるみと本人の感じる不安定感が残る人が多く、前方引き出しテストは受傷6か月の時点で3〜31%が陽性、不安定感は受傷1年後まで7〜42%に残っていました。研究どうしで測り方が違うため、正確な期間は決められないと著者らは述べています3。骨では固定の安定性も治り方を変え、安定性が低いほど軟骨が多く作られ、不安定すぎると軟骨から骨への置き換わりが妨げられます4。
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メカノトランスダクション:負荷が細胞の働きを変える
細胞が機械的な負荷を感じとり、化学的な信号に変えて、組織を作り変える反応を起こす過程をメカノトランスダクションと呼びます。KhanとScottは、この過程を腱を例に三つの段階で説明しました6。
| 1. メカノカップリング | 負荷が細胞を物理的に変形させる段階。アキレス腱は一歩ごとに腓腹筋・ヒラメ筋から引っ張りの力を受け、腱の細胞には引っ張りとずれの力、ときに圧縮の力がかかる。負荷の種類・大きさ・時間によって、細胞の反応は変わる6。 |
|---|---|
| 2. 細胞間の伝達 | 腱の細胞は、ギャップ結合(コネキシン43というタンパク質でできた連結)で互いにつながっている。カルシウムやイノシトール三リン酸(IP3)を介して、刺激を直接受けていない離れた細胞にも信号が伝わる6。 |
| 3. 効果器の反応 | 細胞の外の基質と細胞骨格をつなぐインテグリンが、細胞骨格を介して核に物理的な信号を送る経路と、生化学的な信号の連鎖を動かす経路の両方を働かせる。遺伝子の発現が変わり、作られたタンパク質が細胞の外へ出て基質に組み込まれる6。 |
この仕組みは、けがのないときにも組織を保つ、呼吸や循環と同じような日常の生理の過程です。骨では骨細胞のネットワークが負荷を感じとり、活動がないと信号が弱くなって骨量が減り、ふだんの基準を超える負荷がかかるとタンパク質の合成が増えて骨が太く強くなります6。KhanとScottは、この過程を治療として使うことを「メカノセラピー」と呼び直し、けがをした組織と健康な組織では負荷への反応が違いうることも指摘しています6。
メカノセラピーを支える研究の強さ
KhanとScottが挙げた臨床の例は、仕組みの考え方を支える一方、規模の小さい研究が中心です6。
- 腱:負荷でIGF-Iが増え、細胞の増殖と基質のリモデリングに関わります。遠心性の運動を行ったアキレス腱症の26本の腱を平均3.8年追った小規模の研究では、19本で腱の厚さと低エコーの部分が正常に近づいていました6。
- 筋:動物実験で、瘢痕が安定するまでの短い安静のあとの管理された負荷により、再生する筋管の並びがそろい、再生が速く完全に近くなり、周りの筋の萎縮が少なくなることが示されています6。
- 骨:橈骨遠位端骨折の21名を分けた試験では、ギプスの下に空気で膨らむ袖を着けて断続的に圧迫を加えた群で、固定の終わりに筋力が12〜26%、可動域が8〜14%大きく、その差は10週の時点でも保たれていました。骨折の治癒そのものが変わったかは確かめられていません6。
まとめると、負荷が細胞の働きを変え、組織の作り直しに関わることは基礎研究で支持されており、骨では主な段階がほぼ明らかにされています。筋・腱・軟骨では、負荷が伝わる信号の経路にまだ分からない部分が残ります6。どの組織に、いつ、どのくらいの負荷が最適かは、臨床研究ではまだ決まっていません。
急性の軟部組織損傷:RICEからPOLICE、PEACE & LOVEへ
急性の軟部組織損傷の対応は、ICE、RICE、PRICE、POLICEと頭文字を変えてきました9。足関節捻挫に対するRICE(安静・冷却・圧迫・挙上)の無作為化試験を集めた系統的レビュー(11試験、868名)は、RICEの相対的な有効性を判断するには証拠が足りず、治療は一人ずつ利益と危険をはかり、専門家の意見とガイドラインにもとづいて決める必要があると結論しました7。
2012年に提案されたPOLICEは、保護(Protection)、最適な負荷(Optimal Loading)、冷却、圧迫、挙上の頭文字です。PRICEの各要素にも全体にも質の高い証拠が乏しいことを指摘し、安静は受傷の直後の短い期間に限るべきだとして、安静を「バランスのとれた、段階的に負荷を上げるリハビリテーション」に置き換えました8。
2019年に提案されたPEACE & LOVEは、受傷直後だけでなく、その後の時期と、組織だけでなく人全体を対象にしています9。
| P(保護) | 1〜3日、負荷を減らすか動きを制限して、出血と線維のさらなる損傷を抑える。長い安静は組織の強さと質を損なうため最小限にし、保護をやめる時期は痛みを目安にする9。 |
|---|---|
| E(挙上) | 支持する証拠は弱いが、危険に対する利益の比がよい9。 |
| A(抗炎症の手段を避ける) | 標準の対応に抗炎症薬を含めない。冷却も、軟部組織の損傷に対する有効性に質の高い証拠がなく、修復を妨げうるという懸念がある9。 |
| C(圧迫) | テーピングや包帯で関節内の腫れと出血を抑える。研究の結果は一致しないが、足関節捻挫のあとの圧迫は腫れを減らし、生活の質を高める方向に働くようだとされる9。 |
| E(教育) | 受け身の手段は、能動的な対応と比べて痛みと機能への影響が小さいことを伝える9。 |
| LOVE | 負荷(Load):症状に合わせて早めに機械的な負荷を加え、ふだんの活動を再開する。楽観(Optimism):考え方と感情が、症状のばらつきに大きく関わると考えられている。血流(Vascularisation):受傷の数日後から痛みのない有酸素運動を始める(量の研究は必要)。運動(Exercise):足関節捻挫に運動を用いることには強い証拠がある9。 |
根拠の強さを整理すると、POLICEもPEACE & LOVEも専門家の提案で、頭文字の組み合わせそのものが試験で確かめられたわけではありません8,9。要素ごとに見ると、足関節捻挫に対する運動には強い証拠があり、挙上は弱く、冷却は質の高い証拠がなく、圧迫は結果が一致していません9。
抗炎症薬の扱い
PEACE & LOVEは、炎症を薬で抑えると、特に量が多い場合に長期の治癒に悪い影響が出うるとして、抗炎症薬を標準の対応に含めないよう提案しています。仕組みにもとづく専門家の考え方です9。
鎮痛の面では、コクランの系統的レビュー(受傷48時間以内の捻挫・肉ばなれ・打撲、20研究、3,305名)が比較を行っています。NSAIDsとアセトアミノフェン(パラセタモール)のあいだで、1〜2時間後と1〜3日目の痛みに差はなく(確実性の高い証拠)、7日目以降も差がない可能性があります(確実性の低い証拠)。NSAIDsでは胃腸の有害事象がわずかに多い可能性がありました(確実性の低い証拠)。オピオイドと比べると、1時間後の痛みに差はなく、胃腸と神経の有害事象はNSAIDsのほうが少ないと考えられます(中等度の確実性)10。このレビューは、結果を65歳を超える成人には当てはめないとしています。再受傷を報告した研究はなく、組織の治り方への影響はこのレビューでは判断できません10。服薬の判断は医師・薬剤師の役割で、セラピストは痛みの変化と副作用の訴えを共有します。
組織が治る時間と、痛みが続く時間
組織の治癒と痛みは、同じ時間で進むとは限りません。腱や靭帯のリモデリングは数か月から年の単位で続き1、捻挫では1年後も不安定感が残る人がいます3。痛みがなくなった時点で、組織が元の強さに戻っているとは限りません。踵の痛みの長期の追跡でも、症状が消えたあとに超音波の所見が残る例が報告されています(踵の痛みの評価と治療の進め方)。
反対に、組織の修復が進んだあとも痛みが続くことがあります。痛みは組織の損傷の量をそのまま映すものではなく(痛みの定義)、炎症の物質による侵害受容器の感度の上昇(末梢感作)や、脊髄・脳での処理の変化(中枢性感作)、活動の減少や恐怖と回避が、痛みの続き方を変えます(急性痛と慢性痛)。組織の時間の目安は、「いま何が起きていそうか」を考える一つの軸として使い、痛みの説明をすべて組織の状態に結びつけないようにします。
セラピストが見るべきこと
| 安全 | 体重をかけられない、骨の上の強い圧痛、急に強まる腫れ・熱感・発赤や発熱、しびれや筋力の低下。骨折・感染・神経の損傷を考え、医療機関での評価を優先する。 |
|---|---|
| 受傷からの時間 | 受傷の日と仕方、いまがどの段階にあたりそうか。期間はあくまで目安で、組織、年齢、損傷の大きさで変わる1,2,3。 |
| 組織の種類と血流 | 筋・腱・靭帯・骨・軟骨のどれが中心か。関節の中か外か、血流の乏しい部分か1,5。 |
| 炎症のサイン | 腫れ、熱感、安静時の痛み、夜間の痛み。炎症期の保護が必要な時期かを考える9。 |
| 負荷への反応 | 運動中、直後、翌日までの痛みと腫れの変化。負荷を進めるか、保つか、戻すかの手がかりにする。 |
| 固定と安静 | 固定や安静の期間、自己判断での長い安静。長い安静は組織の強さと質を損なう9。 |
| 服薬 | 鎮痛薬・抗炎症薬の種類と使い方、胃の不調などの副作用。判断は医師・薬剤師へつなぐ10。 |
| 痛みと組織のずれ | 痛みが引いても残るゆるみ・不安定感3、組織の時期に比べて強すぎる・広すぎる痛み、動くことへの恐怖。 |
臨床での使い方
体重をかけられない、骨の上を押すと強く痛む、腫れ・熱感・赤みが急に強まる、発熱を伴う、しびれや力の入りにくさが出てきた、という場合は、負荷を組み立てる前に医療機関での評価を優先します。骨折、感染、神経の損傷など、組織の治癒の通常の経過から外れた状態を考えます。ふくらはぎの片側の腫れ・痛み・熱感(深部静脈血栓症)や、外傷のあとに強まる張りと、筋を伸ばすと強まる痛み(コンパートメント症候群)は、すぐに受診します(レッドフラッグ・安全管理)。
時期ごとの負荷の考え方
次の組み立ては、ここまでの生理と専門家の提案を合わせた臨床の考え方(モデル)で、組織や負荷の量ごとに試験で確かめられたものではありません。
- 受傷直後の数日:出血と線維のさらなる損傷を抑えるため、負荷を減らすか動きを制限します(1〜3日が目安)。保護をやめる時期は痛みを目安にし、長い安静にしません9。痛みのない範囲の有酸素運動は、受傷の数日後から始められます9。
- 増殖期:新しく作られている組織は細胞が多く、まだ並びがそろっていません1。痛みと腫れの反応を見ながら、関節を動かす範囲と小さな負荷から始めます。
- リモデリング期:線維は力のかかる向きに並んでいきます1。本人の生活や競技で組織にかかる向きと大きさに近い負荷へ、量・速さ・方向を一つずつ増やします。骨折のあとの負荷は、固定の方法と治癒の段階で変わるため、主治医の指示を確かめてから進めます4。
時間の目安と、毎回の反応を組み合わせる
時間の目安は計画の大枠に使い、負荷を進めるかどうかは毎回の反応で決めます。臨床では、運動中の痛みが本人と決めた許容範囲を超えず、翌日までに運動前の水準に戻ることを目安にする方法がよく使われます。反応が強いときは量や頻度を一段階戻し、反応が落ち着いていれば次の段階を試します。活動量の調整の具体的な方法はペーシングで、部位ごとの負荷の組み立ては肩の評価と治療の進め方や踵の痛みの評価と治療の進め方で扱います。
患者説明への変換
けがをした組織は、まず傷をふさぎ、次に新しい組織を急いで作り、そのあと時間をかけて丈夫に作り直していきます。痛みが引いた時期と、組織が元の負荷に耐えられるようになる時期は同じではないので、反応を見ながら負荷を少しずつ増やしていきましょう。
炎症について不安を持つ患者には、「腫れや熱は、体が修復を始めている合図でもあります。最初の数日は守りながら、そのあとは少しずつ動かしていくほうが、組織が負荷に慣れていきます」と伝えます。冷却や薬について聞かれたら、「痛みを和らげる手段の一つですが、組織の治り方を早めるかどうかは、まだはっきりしていません。薬は医師や薬剤師に相談しましょう」と伝えます。
動かすことを怖がっている患者には、「組織は、かかる力の向きに合わせて線維を並べ直していきます。適度な負荷は、その作り直しの材料になる刺激です」と伝えます。見通しは「筋は数週、靭帯や腱は数か月かけて、少しずつ負荷に耐えられるようになっていきます」と時間の単位で伝え、回復の時期は約束しません。痛みが組織の回復より長く続いている場合は、「組織だけでなく、痛みを感じる神経の感度も関わっています。動きを少しずつ戻していく中で、その感度も変わりうると考えられています」と、組織と神経の両方から説明します。
言い換え
痛みがなくなったから、もう元通りです。炎症は悪いものなので、とにかく抑えましょう。治るまで動かさないでください。
組織は時間をかけて丈夫に作り直されていきます。最初の数日は守り、そのあとは反応を見ながら少しずつ負荷を増やしましょう。
