本文ノート
IASPは末梢感作を「末梢の侵害受容ニューロンの、受容野への刺激に対する反応性の増加と閾値の低下」と定義しています1。言い換えると、組織にあるセンサーが、いつもより弱い刺激で反応し、同じ刺激にはいつもより強く反応する状態です。臨床では、患部が熱い、腫れている、軽く押すだけで痛い、動かした後に長く残る、翌日に増える、といった反応が手がかりになります。
関連する用語として、IASPは痛覚過敏(hyperalgesia:ふだん痛い刺激による痛みが増すこと)と、アロディニア(allodynia:ふだん痛くない刺激で痛むこと)を区別しています1。アロディニアは臨床で観察される現象を指す言葉で、機序を意味しないと注記されています1。損傷や炎症の部位そのものに起こる痛覚過敏は一次性痛覚過敏と呼ばれ、主に末梢感作によって説明されます。一方、損傷部位の周りの傷んでいない皮膚にまで広がる痛覚過敏は二次性痛覚過敏と呼ばれ、主に脊髄など中枢の変化が関わります3。
末梢感作の多くは、炎症が落ち着くにつれて元に戻る、可逆的な変化です2,3。ここで守るべき原則は、末梢感作を「壊れている証拠」として説明しないことです。センサーが敏感になっていることと、損傷が進んでいることは同じではありません。炎症や組織反応が強い時期には刺激量を下げる必要がありますが、その説明が「動くと悪化するから動いてはいけない」に変わると、活動量の低下と回復の遅れにつながる場合があります。
同時に、慢性痛でも末梢からの入力は軽視できません。中枢の変化がはっきりしている慢性痛でも、末梢からの侵害受容入力を遮断すると痛みが大きく減る場合があり、持続する末梢入力が痛みの維持に関わっていることが示されています2。「長引いているから中枢の問題」と決めつけず、局所の組織反応も評価し続けます。
セラピストに求められるのは、痛みを我慢させることでも、すべての刺激を避けさせることでもなく、反応が強くなりすぎない範囲を見つけることです。圧の強さ、運動の回数、立っている時間、靴の当たり方、施術後の残り方を見ながら、「今日の身体が受け入れられる量」を探します。
少し掘り下げる
炎症のスープ
組織が傷ついたり炎症が起きたりすると、損傷した細胞、肥満細胞、マクロファージ、好中球、血小板などから、さまざまな物質が局所に放出されます。プロスタグランジン、ブラジキニン、ヒスタミン、セロトニン、アデノシン三リン酸(ATP)、プロトン(組織の酸性化)、神経成長因子(nerve growth factor:以下、NGF)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)やインターロイキン1β(IL-1β)、インターロイキン6(IL-6)などのサイトカインです3,4。この混ざり合った環境は「炎症のスープ」と表現されます3。これらの一部は侵害受容器を直接興奮させ、多くは受容器やイオンチャネルの反応しやすさを変えます。
サイレント侵害受容器の参加
ふだんは機械刺激にほとんど反応しない侵害受容器の一群が、炎症の環境では反応するようになります5。炎症のある関節で、ふだんは痛くない動きや荷重が痛みになる理由の一つです。
神経から免疫への信号
侵害受容器は信号を受け取るだけではありません。刺激を受けた侵害受容器の末端からは、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)やサブスタンスPが放出され、血管を広げて赤み(フレア)を生み、血漿を漏れ出させ、免疫細胞の働きにも影響します4。これを神経原性炎症と呼びます。神経と免疫は双方向にやりとりしており、その関係は痛みと炎症の両方を形づくります4。
さらに掘り下げる
閾値を下げる分子の流れ
- プロスタグランジンE2(PGE2):侵害受容器のEP受容体に結合し、細胞内のサイクリックAMPを増やしてプロテインキナーゼA(PKA)を働かせます。PKAはNav1.8などのナトリウムチャネルや一過性受容体電位バニロイド1(TRPV1)をリン酸化し、少ない刺激で活動電位が出やすくなります。PGE2はそれ自体で強い痛みを起こすというより、反応しやすくする方向に働きます。
- ブラジキニン:B2受容体を介して侵害受容器を直接興奮させるとともに、プロテインキナーゼC(PKC)を介してTRPV1を感作し、熱による痛みの閾値を下げます。
- NGF:TrkA受容体に結合し、短期的にはTRPV1の感作を、長期的には細胞体へ運ばれて、TRPV1、ナトリウムチャネル、サブスタンスP、CGRPなどの発現を増やします。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)はシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害してプロスタグランジンの合成を減らし、この感作の流れを弱めます2。侵害受容そのものを遮断するのではなく、閾値の低下を抑える薬だと理解すると、炎症期の痛みに使われる理由がつながります。
圧力の物理で考える
末梢感作のある組織では、同じ力でも「どれだけの面積で受けるか」が反応を左右します。圧力は P = F / A(単位はパスカル、1 Pa = 1 N/m²)です。たとえば600 Nの力を25 cm²(0.0025 m²)で受けると約240 kPa、同じ力を半分の12.5 cm²で受けると約480 kPaになります。これは単純化した計算ですが、靴の当たりや硬い床での立ち仕事が、敏感になった部位の痛みを変える理由を、力と面積の関係として説明できます。
セラピストが見るべきこと
| 局所サイン | 熱感、腫脹、発赤、圧痛、触れると不快、安静時の違和感。左右差を比べる。 |
|---|---|
| 過敏の範囲 | 痛覚過敏が損傷部位にとどまるか(一次性)、周囲の傷んでいない部位へ広がるか(二次性:中枢の関与を考える)。 |
| 時間経過 | 動作中だけか、終了後に残るか、翌朝に戻るか、週単位で増えていないか。 |
| 刺激量 | 手技の圧、運動の回数と強さ、歩行量、立っている時間、靴の当たりを分けて記録し、一つずつ調整する。 |
| 安全 | 発熱、急に広がる発赤や腫脹、強い外傷、感染を疑う背景、糖尿病のある人の熱く腫れた足は、医療機関での評価を優先する(レッドフラッグ)。 |
臨床での使い方
「その場」と「後から」を分ける
介入を考える時は、施術中の痛みの有無だけで成否を決めません。施術中に痛みが少し下がっても、翌日に強く残るなら刺激量が大きかった可能性があります。逆に、その場で少し違和感があっても、数時間で落ち着き、生活でできることが増えるなら許容範囲かもしれません。反応を「その場」と「後から」に分けると、負荷の調整が具体的になります。
痛みをモニタリングしながら進める
アキレス腱症の無作為化比較試験では、痛みのモニタリングモデル(運動中の痛みは0〜10で5まで、運動後の痛みは翌朝までに落ち着く、痛みやこわばりが週ごとに増えていかない)を使ってランニングやジャンプを続けた群と、最初の6週間それらを中止した群で、回復の度合いに差は見られませんでした6。対象は38人と小規模で、特定の疾患での結果ですが、「痛みを時間経過で監視しながら負荷を続ける」という考え方の根拠の一つになります。
慢性の筋骨格系疼痛については、痛みを許容する運動と痛みのない運動を比べた系統的レビューで、短期の痛みに小さな差が見られたものの、中長期の痛みや機能には差がありませんでした7。2025年の更新版では、どの時点でも明確な差はなく、根拠の確実性は低い〜非常に低いと評価されています8。現時点で言えるのは、「運動中に多少の痛みがあっても、必ずしも避ける必要はない。ただし、痛みを伴う方が優れているとも言えない」という範囲です。
避けたい説明
「痛みを我慢すれば良くなる」「強い刺激で慣らす」と言い切ることは避けます。炎症の強い時期に強い刺激を重ねると、感作を強める方向に働く可能性があります。
患者説明への変換
いまはその場所のセンサーが敏感になっている可能性があります。壊れているというより、少しの刺激でも反応しやすい状態です。刺激をゼロにするのではなく、反応が強くなりすぎない範囲を一緒に探しましょう。
患者には、「痛いから全部避ける」でも「痛くても押し切る」でもない選択肢を示します。たとえば、今日は長時間の負荷を避ける、当たりの強い靴を変えて比べる、動いた後の残り方を翌朝まで記録する、といった具体策です。
目安として、「動いている間に少し痛むのはかまいませんが、翌朝には元に戻っているかを確認してください。翌朝も強く残る、腫れや熱さが増える時は、量を減らします」と伝えると、本人が自分で判断できる基準になります。回復を約束するのではなく、反応を見ながら安全な範囲を調整する、と伝えると不安をあおりにくくなります。
