本文ノート
痛みは、どの仕組みが主に働いているかによって3つの記述語で整理されます1。
- 侵害受容性疼痛:神経以外の組織の実際の損傷、または損傷のおそれによって生じ、侵害受容器の活性化による痛み。捻挫、腱の過負荷、関節の炎症などが典型です。
- 神経障害性疼痛:体性感覚神経系の病変または疾患によって生じる痛み。帯状疱疹後神経痛、糖尿病による多発神経障害、神経根の障害などが含まれます。
- 痛覚変調性疼痛(nociplastic pain):組織損傷や神経の病変の明確な証拠がないにもかかわらず、侵害受容の変化から生じる痛み。線維筋痛症や緊張型頭痛がよく例に挙げられます5。ただし、線維筋痛症が常に純粋な痛覚変調性疼痛とは限らないという議論もあります7。
3つ目の記述語は、侵害受容性とも神経障害性とも言いにくい慢性痛を表す言葉が必要だという議論から2016年に提案され2、その後IASPの用語に加えられました1。IASPは、侵害受容性と痛覚変調性の痛みが同じ人に重なりうることも注記しています1。実際の臨床では、慢性腰痛のように、侵害受容性や神経障害性の要素に痛覚変調性の要素が重なる混合の状態が起こりえます5。混合の状態では、どの機序が「ある・なし」かよりも、どの機序がどの程度関わっていそうかを考える方が臨床では役に立ちます。
ここで区別しておきたい分類が2つあります。1つは時間による分類です。3か月以上続く、または繰り返す痛みを慢性痛と呼び(急性痛と慢性痛)、これは機序の分類とは別の軸です8。もう1つは国際疾病分類第11版(International Classification of Diseases 11th Revision:以下、ICD-11)の「慢性一次性疼痛」で、痛みそのものを病態として扱う診断カテゴリーです8。痛覚変調性疼痛は機序の記述語であり、慢性一次性疼痛とも、中枢性感作とも同じ意味ではありません。また、「原因が分からない痛み」の新しい呼び名でもありません7。
分類の目的は、患者にラベルを貼ることではなく、評価と説明の順番を決めることです。侵害受容性の要素が強そうなら、負荷量や炎症の経過を見ます。神経障害性の要素が疑われるなら、神経学的な所見と医療連携の必要性を確かめます。痛覚変調性の要素が強そうなら、局所の刺激だけでなく、睡眠、疲労、活動量、過敏さの広がりも含めて方針を立てます。
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神経障害性疼痛の確からしさ
神経障害性疼痛には、確からしさを3段階で判断する仕組みがあります3。神経の病変や疾患の既往があり、痛みの分布が神経解剖学的に説明できれば「可能性あり(possible)」、同じ分布に感覚の異常(低下または過敏)があれば「おそらく(probable)」、検査で病変や疾患が確認されれば「確実(definite)」とします。ただし「確実」でも、その病変が痛みの原因であるとは限らない、という注意が添えられています3。詳しくは神経障害性疼痛で扱います。
痛覚変調性疼痛の臨床基準
筋骨格系に現れる痛覚変調性疼痛には、2021年に臨床基準が示されました4。「可能性あり」には、(1) 3か月以上の痛み、(2) 局所に限らない領域性・多部位・広範囲の分布、(3) 侵害受容性や神経障害性の機序だけでは痛みを説明しきれないこと、(4) 痛む部位に過敏性の臨床所見(軽く触れる・なでる・圧迫する・温める・冷やすで誘発される痛み、刺激後に痛みが残る)があること、のすべてが必要です。これに、痛む部位の過敏性の病歴と、併存する症状(音・光・においへの過敏、夜間に何度も目覚める睡眠障害、疲労、集中や記憶の問題)が加わると「おそらく」とされます4。
この基準は国際的な専門家の合意として作られたもので、実地での検証と改訂が続いています7。たとえば、痛覚変調性の要素は「ある・なし」ではなく連続的に存在しうるため、他の機序を「除外」する条件については見直しの議論があります7。
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機序ごとに何が起きているか
侵害受容性の痛みでは、組織の損傷や炎症によってプロスタグランジン、ブラジキニン、プロトン、アデノシン三リン酸(ATP)、神経成長因子などが増え、侵害受容器の閾値が下がります(末梢感作)。神経障害性の痛みでは、損傷した神経でナトリウムチャネルの発現や分布が変わって自発的な発火が起こり、脊髄で興奮性と抑制性の入力のバランスが崩れます。痛覚変調性の痛みでは、中枢での痛み・感覚処理の増強と、痛みを調節する仕組みの変化が中心的な役割を担うと考えられていますが、その仕組みはまだ十分には分かっていません5。
分類は治療につながるか
痛覚変調性疼痛は、抗炎症薬、手術、注射など末梢を標的にした治療への反応が乏しい傾向があると総説では述べられています5。腰痛については、優位な機序によって治療への反応が異なる可能性を示す予備的な根拠があり、国際コンセンサス(BACPAP)が優位な機序を見分ける手順を提案しました6。ただしこのコンセンサスは、腰痛に特化した追加の根拠が得られるまでは、臨床で治療選択に当てはめる段階ではないと明記しています6。
根拠の強さで整理すると、3つの記述語の定義はIASPの公式用語、臨床基準と段階づけは専門家の合意、「分類によって治療を変えると結果が良くなる」は研究途中の仮説、という位置づけになります。
セラピストが見るべきこと
| 侵害受容性の手がかり | 痛みが組織に対応した範囲にとどまる。特定の動作や負荷で再現し、負荷を減らすと落ち着く。熱感・腫脹など炎症の経過と痛みの変化がそろう。 |
|---|---|
| 神経障害性の手がかり | 神経の病変・疾患の既往。神経解剖として自然な分布。同じ分布での感覚低下や過敏、筋力低下、反射の変化。灼熱感、電撃痛、しびれなどの表現。 |
| 痛覚変調性の手がかり | 3か月以上。局所に限らない分布。痛む部位での触刺激・圧・温冷への過敏。音・光・においへの過敏、睡眠障害、疲労、集中や記憶の問題。 |
| 混合の可能性 | 局所の負荷反応がありながら、範囲の広がりや全身症状もある。単一の分類で押し切らない。 |
| 時間による変化 | 急性期は侵害受容性が目立ち、経過とともに他の要素が目立ってくることがある。初回の分類を固定しない。 |
| 安全 | 進行する神経症状、排尿排便の変化、全身症状は、分類より先に医療連携を考える。 |
臨床での使い方
初回評価の組み立て
初回評価では、「これは何タイプです」と早く言い切るより、まず安全確認を済ませ、痛みの質、分布、誘発条件、経過、生活への影響を並べます。そのうえで、現時点で優位そうな機序を仮に置きます。熱感や腫脹が目立てば刺激量を落とす話が先になります。神経症状が進んでいれば医療連携が先になります。広い範囲の過敏さや睡眠不良が強ければ、負荷だけでなく生活リズムや活動量の扱いを考えます。
記録の仕方
記録には「侵害受容性が優位、痛覚変調性の要素あり(睡眠障害・広範囲の圧痛)」のように、優位な機序と重なっている要素を両方書きます。次回以降に、どの要素が変わったかを追えるようにするためです。分類が変わることは評価の失敗ではなく、経過を見ている証拠です。
言葉の扱い
「痛覚変調性」「中枢性感作」という言葉は、患者には「気のせい」「脳の問題」と受け取られることがあります。患者に伝える時は、専門用語より「痛みを感じ取る仕組みの感度が上がっている」「体のどこか一か所だけの問題ではない可能性がある」と言い換えます。
患者説明への変換
痛みにはいくつかのタイプがあり、一人の中で重なっていることもよくあります。今日は「どれか一つに決める」より、どの要素が強そうかを整理して、安全にできることから考えます。
患者には、「タイプが違うと、気をつけることも少し変わります」と伝えると入りやすくなります。炎症が強そうなら刺激の量を調整する、神経の症状が気になるなら医療機関で確認する、過敏さが広がっていそうなら睡眠や活動量も含めて整える。こう説明すると、分類が専門家の都合ではなく、本人の安全と生活に戻るための道具になります。
経過の中で説明が変わることもあらかじめ伝えておきます。「最初は関節の炎症が中心に見えましたが、今は眠りや疲れの影響も大きそうです」と言えると、説明の変化が信頼を損なわず、評価を続けている理由として伝わります。
