本文ノート
痛みと抑うつは、臨床でよく一緒に現れます。プライマリケアの研究では、痛みと抑うつは30〜50%の割合で併存すると報告されています2。2003年の文献レビューは、抑うつのある人の集団で痛みがある割合も、痛みのある人の集団で抑うつがある割合も、それぞれを単独で調べた時より高いことをまとめました1。
この併存は、互いの経過に影響します。同じレビューによると、痛みがあると抑うつは見逃されやすく、治療も難しくなります。痛みが中等度以上である、機能を妨げている、治療に反応しにくい、という場合には、抑うつ症状が多く、抑うつの経過も悪く(生活の質の低下、仕事の機能の低下、医療の利用の増加)なります。反対に、痛みのある人に抑うつが重なると、痛みの訴えが増え、障害も大きくなります1。痛みと抑うつは生物学的な経路や神経伝達物質を共有しており、両方を同時に評価し治療するモデルが必要だと結論されています1。
痛みが長引くと、生活でできることが少しずつ減っていきます。出かける機会が減る、仕事や家事の役割が変わる、人に頼ることが増える、睡眠が崩れる。こうした喪失の積み重ねは、気分と意欲を下げる方向に働きます。抑うつがある時、患者は「やればできる」と言われるほど、できないことを責められているように感じることがあります。セラピストに求められるのは、活動を促す前に、何ができなくなり、何を失い、どこで孤立しているのかを聞くことです。
抑うつの診断と治療は医師の役割です。セラピストは、気分・意欲・睡眠の変化に気づき、声をかけ、話を聞き、必要な専門職につなぐ役割を担います。厚生労働省は、悩んでいる人の自殺の危険を示すサインに気づき、声をかけ、話を聞き、必要に応じて専門家につなぎ、見守る人を「ゲートキーパー」と呼び、養成を進めています8。痛みの患者と継続的に接するセラピストは、この役割を担いやすい立場にあります。
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双方向の関係
持続する腰・股関節・膝の痛みがあるプライマリケア患者500人を12か月追跡した研究では、痛みの重さの変化は、その後の抑うつの重さを強く予測し、抑うつの重さの変化も、その後の痛みの重さを同じくらい強く予測していました2。著者らは、痛みと抑うつが互いに因果的な影響を持つ可能性を強める結果だとし、一方の治療で十分な反応が得られない時には、両方を認識し対処することが求められると述べています2。
28件の研究をまとめた系統的レビューでも、痛みと抑うつは強く絡み合い、身体と心理の症状を互いに悪化させうること、痛みと抑うつが併存する人では、どちらか一方だけの人と比べて身体的・精神的・社会的な機能が低いことが示されました3。
抑うつに気づくための質問
抑うつに気づくための簡便な方法として、2つの質問がよく使われます。英国NICEのガイドラインは、特に抑うつの既往がある人や、機能の障害を伴う慢性の身体疾患がある人では抑うつの可能性に注意し、「この1か月、気分が落ち込む、憂うつになる、絶望的な気持ちになることがよくありましたか」「この1か月、物事に対して興味がわかない、心から楽しめないことがよくありましたか」と尋ねることを勧めています7。そして、どちらかに「はい」と答えた人がいて、尋ねた人が精神面の評価を行う能力を持たない場合は、評価できる専門職に紹介するよう勧めています7。
同じ2つの内容を過去2週間について0〜3点で尋ねるPHQ-2では、合計3点以上で、専門職の面接によるうつ病の診断に対して感度83%、特異度92%でした5。こうした質問は診断ではありません。セラピストが使う場合も、所属先の方針に沿って、結果を医師と共有する情報として扱います。
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共有される神経生物学
痛みと抑うつの生物学的な基盤として、セロトニン系とノルアドレナリン系が重視されています。セロトニンとノルアドレナリンに作用する抗うつ薬が痛みを和らげる性質を持つことは、その一つの根拠とされます3。これらのモノアミン系は、脳幹から脊髄後角へ下行して侵害受容の伝達を調節する経路にもかかわっています。気分と痛みが別々の問題ではなく、神経生理として重なり合う部分を持つことは、「気合いが足りない」という見方を手放す根拠になります。
この性質から、セロトニンとノルアドレナリンに作用する抗うつ薬が、痛みの治療の一部として処方されることもあります3。患者が「抗うつ薬を出されたのは、気のせいだと思われたからか」と受け取っている場合は、主治医に処方の目的を確認するよう勧めます。薬の選択と調整は医師の領域です。
慢性痛と自殺のリスク
慢性痛のある人の自殺に関する研究をまとめたレビューでは、慢性痛のある人の自殺による死亡のリスクは対照の少なくとも2倍と見積もられ、自殺企図の生涯有病率は5〜14%、自殺念慮の有病率はおよそ20%と報告されました4。痛みに特有のリスク因子として、痛みの種類・強さ・持続期間、痛みと併存する入眠困難が挙げられ、心理的な過程として、痛みに対する無力感と絶望感、痛みから逃れたいという願い、破局的思考と回避、問題解決の困難が関連するとされています4。
これらの数字は、慢性痛の臨床では希死念慮が珍しいものではないことを示しています。セラピストが尋ねることをためらわない理由になります。自殺について尋ねることが自殺念慮を誘発するかを調べた研究をまとめたレビューでは、尋ねたことで念慮が統計的に有意に増えた研究はなく、話題にすることはむしろ念慮を減らす可能性も示唆されています6。NICEのうつ病ガイドラインも、抑うつのある人には希死念慮と意図を直接尋ねること、自身や他者への差し迫った大きな危険がある場合は専門の精神保健サービスへ緊急に紹介することを勧めています7。
セラピストが見るべきこと
| 生活の変化 | 以前できていたことで、最近できなくなったことを聞きます。活動量だけでなく、役割、楽しみ、人との接点がどう変わったかを確認します。 |
|---|---|
| 気分と興味 | 気分の落ち込み、興味や喜びの低下が続いているかを聞きます。2つの質問の形で尋ねると、確認の抜けが減ります。 |
| 睡眠・食欲・活力 | 寝つき、夜中や早朝の目覚め、食欲や体重の変化、疲れやすさ、集中のしにくさ、自分を責める気持ちを確認します。 |
| 痛みとの循環 | 痛みで動けない、動けないことで気分が下がる、気分が下がると痛みに対処する力が落ちる、という循環がないかを見ます。 |
| すぐに連携が必要なサイン | 「死にたい」「消えてしまいたい」「迷惑をかけるくらいならいない方がいい」といった言葉、具体的な計画や手段、身辺整理や別れの準備、絶望感の強さがあれば、その日のうちに所属先の手順に沿って医師や責任者に連絡します。 |
| 支援の資源 | 家族、職場、主治医、心理職、地域の相談窓口など、患者が孤立しないための接点を確認します。 |
差し迫った危険がある時(自殺の計画や手段がある、すでに行動に移しかけている)は、本人を一人にせず、救急(119番)を含めて対応し、所属先の責任者と主治医に連絡します。相談窓口として、厚生労働省「まもろうよ こころ」に、#いのちSOS(0120-061-338)、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などが掲載されています(2026年10月時点)。
臨床での使い方
失ったものから聞く
抑うつが疑われる時は、痛みの説明を急ぎすぎないことが大切です。「以前の生活のどの部分が、一番遠くなりましたか」と聞くと、症状の点数ではなく、生活の中での痛みが見えてきます。
2つの質問を習慣にする
初回評価や経過の確認の中で、気分の落ち込みと興味・喜びの低下についての2つの質問を習慣にします。決まった流れで尋ねると、患者も答えやすく、セラピスト自身もためらいにくくなります。どちらかに当てはまる場合は、主治医への相談を勧め、所属先の方針に沿って情報を共有します。
尋ねる時の言葉
希死念慮について尋ねる時は、遠回しにせず、落ち着いて尋ねます。「つらさが続くと、消えてしまいたいと思うことがある人もいます。そう思うことはありますか」。答えを聞いたら、驚いたり説教したりせず、「話してくれてありがとうございます」と受け止めます。秘密にする約束はせず、「あなたの安全のために、主治医と相談させてください」と伝えます。
活動は小さく、リズムを戻す目的で
活動を勧める時は、気分を上げるために頑張る、という言い方ではなく、体と生活のリズムを少し戻すための実験として扱います。NICEのうつ病ガイドラインでは、活動と気分の関係に気づき、活動を計画する行動活性化も治療の選択肢として示されています7。できなかった時の戻し方も決めておくと、失敗体験になりにくくなります。
つなぐことを「見放す」にしない
医療・心理の専門職につなぐ時は、「ここでは対応できない」ではなく、「痛みと生活の負担が大きいので、支える人を増やしたい」と伝えます。紹介した後もセラピストとの関係が続くことを伝えると、患者が見放されたと感じにくくなります。
患者説明への変換
痛みが長く続くと、気持ち、睡眠、意欲、人との関わりにも影響が出ることがあります。体のことと一緒に、生活と気持ちの状態も見ていきましょう。
痛みと気分の落ち込みは、互いに影響し合うことが分かっています。痛みが強いと気持ちが沈み、気持ちが沈むと痛みに対処する力が落ちる。どちらか一方だけを見ていると、なかなか前に進まないことがあります。
最近、気分が落ち込むことや、前は楽しめていたことが楽しめなくなっていることはありますか。眠れない、食欲がない、疲れやすいということはありますか。当てはまるものがあれば、それも大切な情報です。体の評価と合わせて、主治医や心理の専門家と一緒に支える方法を考えます。
つらさが強い時や、消えてしまいたいと思う時は、一人で抱えずに話してください。ここで話を聞くこともできますし、主治医や相談窓口につなぐこともできます。
