本文ノート
睡眠の乱れは、慢性的な痛みを持つ人で最もよく聞かれる訴えの一つです。健康な人での実験研究と、患者での横断研究から、痛みが睡眠の連続性と質を乱し、乱れた睡眠がさらに痛みを強めるという、双方向の関係が考えられてきました2。2004年の総説は、方法論上の問題は多いものの、この関係は双方向であり、痛みや不眠に対する認知行動療法が痛みの軽減と睡眠の質の改善に有望だとまとめています2。
その後の研究は、方向性についてもう一歩踏み込んだ傾向を示しています。2005年以降の前向き研究と実験研究を検討した総説では、集団を対象とした縦断研究で、睡眠の障害が慢性痛の新たな発症と悪化を一貫して予測することが主要な傾向として挙げられました。また、日ごとの睡眠と痛みを詳しく追った研究では、睡眠の障害が痛みを予測する力のほうが、痛みが睡眠の障害を予測する力より強く安定していることが示されています1。
一般住民を対象とした16件の縦断研究(約61,000人)の系統的レビューでも、睡眠の質と量の低下は、痛みの症状が新たに生じるリスクの2〜3倍の上昇、炎症マーカーのわずかな上昇、自己評価による身体の健康状態の低下と関連していました。探索的なメタ解析では、睡眠の悪化は身体機能の低下と(中程度の効果)、睡眠の改善は身体機能のよさと(小さな効果)関連していました4。
臨床では、睡眠を痛みの「原因」として固定するのではなく、回復の条件の一つとして評価に入れます。「眠れないから痛い」と断定すると、患者はさらに眠ることに緊張します。夜の睡眠だけでなく、日中の活動、昼寝、光を浴びる時間、就寝前の過ごし方、飲酒やカフェインといった一日の流れの中で睡眠を見ることが、セラピストにできる評価です。
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睡眠の「時間」より「途切れ方」
睡眠と痛みの関係を実験的に調べた代表的な研究に、Smithらの研究があります。健康な女性32人を7晩にわたって睡眠ポリグラフで記録し、通常の睡眠を続ける群、夜中に1時間ごとに8回起こされる群、寝る時間を遅らせて総睡眠時間を前者と同じに減らす群に分けました3。両方の睡眠制限の群で総睡眠時間はおよそ半分に減りましたが、痛みの閾値はどの群でも変わりませんでした。一方、夜中に何度も起こされた群でだけ、冷水刺激を条件刺激として測った内因性の疼痛抑制が低下し、自発痛が増加しました3。
この結果は、単純に睡眠時間が短いことよりも、睡眠の連続性が乱れることが内因性の疼痛抑制を損ない、自発痛を増やす可能性を示しています3。痛みのある人の睡眠を聞く時に、「何時間寝ましたか」だけでなく、「夜中に何回目が覚めますか」「目が覚めた後、すぐに眠れますか」と聞く理由がここにあります。
痛みの側から見た睡眠
痛みは、寝返りや姿勢の変化のたびに覚醒を引き起こし、睡眠の連続性を乱します。痛みへの不安や翌日の心配が寝つきを悪くし、夜中に目が覚めた時に痛みに注意が向くことで、再び眠りにくくなります。こうして睡眠の分断が続くと、前述のように疼痛抑制が弱まり、翌日の痛みが目立つ、という循環が成立しうると考えられます。
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睡眠不足が痛みを修飾する仕組み
睡眠不足が痛みを修飾する仕組みとして、オピオイド系、モノアミン系、オレキシン系、免疫系、メラトニン、内因性カンナビノイド系、視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸、アデノシン、一酸化窒素のシグナルなどが検討されています5。2013年の総説も、今後の研究の標的として、ドーパミン系とオピオイド系、肯定的・否定的な感情、社会人口学的な要因を挙げています1。これらの多くは動物実験や健康な人での実験に基づく候補であり、個々の患者でどの仕組みが働いているかを特定できる段階ではありません。
炎症との関係は単純ではない
睡眠と炎症の関係については、72件の研究(5万人以上)のメタ解析があります。睡眠の障害は、C反応性タンパク(CRP)とインターロイキン6(IL-6)の上昇と関連していました。一方、短い睡眠時間はCRPの上昇とは関連したもののIL-6とは関連せず、極端に長い睡眠時間はCRPとIL-6の両方の上昇と関連していました。実験的な断眠や睡眠制限は、これらの炎症マーカーと関連していませんでした6。睡眠と炎症の関係は「寝不足だと炎症が起きる」という単純な形ではなく、睡眠の障害の種類と期間によって異なると理解しておくのが妥当です。
睡眠への介入と痛み
慢性痛のある人を対象とした、睡眠に対する非薬物療法のランダム化比較試験11件(1,066人)のメタ解析では、睡眠の質に大きな改善(SMD 0.78)、疲労に中程度の改善が見られた一方、痛みの軽減は小さいもの(0.18)でした。睡眠の質と疲労の改善は最長1年の追跡時まで維持され、追跡時には抑うつの中程度の軽減も見られました。対面で行う治療は、電話やインターネットによる治療より良い結果でした7。対象研究はまだ少ないものの、睡眠への介入は、痛みの強さそのものより、睡眠・疲労・気分を通して生活を支える手段として位置づけられます。
不眠に対する認知行動療法では、一般に、寝床で過ごす時間を実際の睡眠時間に合わせて調整する、眠くなってから寝床に入り眠れない時はいったん寝床を離れる、起床時刻をそろえる、睡眠についての心配や思い込みを点検する、といった要素を組み合わせます。これらは訓練を受けた専門職が、本人の睡眠の記録をもとに段階的に進める治療です。セラピストが日常の助言として扱えるのは、起床時刻や日中の活動、光を浴びる時間といった生活のリズムの部分までと考えておくのが安全です。
睡眠と気分、安全
睡眠の問題は、気分の問題とも重なります。慢性痛のある人の自殺に関する研究をまとめたレビューでは、痛みに特有のリスク因子の一つとして、痛みと併存する入眠困難が挙げられています8。眠れない夜が続いている患者で、気分の落ち込み、絶望感、「消えてしまいたい」という言葉がある場合は、睡眠の助言にとどめず、所属先の手順に沿って医師に連絡します。睡眠を丁寧に聞くことは、気分と安全の変化に早く気づく入口にもなります。
セラピストが見るべきこと
| 睡眠の型 | 寝つき、夜中の目覚めの回数、早朝の目覚め、起床時の疲労感、日中の眠気を聞きます。睡眠時間だけでなく、途切れ方とリズムを見ます。 |
|---|---|
| 痛みとの関係 | 寝返りで目が覚める、朝だけ強い、夜間の安静時に強い、姿勢で変わるなど、痛みの出方を分けて聞きます。 |
| 日中の流れ | 活動量、昼寝の長さと時刻、外出して光を浴びる時間、カフェイン、飲酒、就寝前のスマートフォンや検索を確認します。 |
| 夜間痛のレッドフラッグ | 姿勢で変わらない安静時の強い夜間痛、発熱、原因不明の体重減少、がんの既往、進行する神経症状があれば、生活の助言で済ませず医療機関での評価を優先します(レッドフラッグ)。 |
| 睡眠の病気の可能性 | 大きないびきや睡眠中の呼吸の停止を指摘される、日中に強い眠気がある、夕方から夜に脚のむずむず感で眠れない、といった訴えがあれば、医師への相談を勧めます。 |
| 気分と服薬 | 早朝に目が覚めて眠れない状態が気分の落ち込みと重なる場合は抑うつの評価が必要なことがあります(抑うつと痛み)。眠気や不眠が薬の影響と考えられる場合は、自己判断で中止せず処方医に相談するよう伝えます。 |
臨床での使い方
痛み、心配、昼寝、活動量、薬、飲酒、寝室の環境を分けて聞きます。原因を一つに決めるより、調整できる条件を探します。
1〜2週間、寝た時刻、起きた時刻、夜中に目が覚めた回数、翌日の痛みを簡単に記録してもらいます。睡眠と翌日の痛みの関係を本人が確かめられます。
「寝なければ」と焦るほど緊張が増えることがあります。起床時刻をそろえる、日中に体を動かし光を浴びる、就寝前の過ごし方を整えるなど、触れやすい条件から見ます。
起床時の痛みは寝具だけでなく、前日の活動量、睡眠の分断、寝返りのしやすさ、起きた後の動き出しも関係します。
日中の活動量が極端に少ない、または夕方以降に偏ると、夜の睡眠に影響することがあります。ペーシングで一日の活動の配分を整えます。
不眠が長く続き日中の生活に影響している場合は、医師に相談し、不眠に対する認知行動療法などの専門的な治療を検討してもらいます。
患者説明への変換
痛みを下げる話だけでなく、体が回復しやすい条件も一緒に見ていきます。睡眠が乱れると痛みが目立ちやすくなり、痛みが強いと眠りも乱れやすくなります。
睡眠と痛みは、互いに影響し合っています。特に、夜中に何度も目が覚めて眠りが途切れると、体が自分で痛みを抑える働きが弱まりやすいことが分かっています。だから、「何時間寝たか」だけでなく、「夜中に何回目が覚めたか」も教えてください。
眠ろうと頑張りすぎると、かえって目がさえてしまうことがあります。まずは、毎朝起きる時刻をそろえる、昼間に少し外に出て体を動かす、寝る前の検索を控える、といった、取り組みやすいところから始めましょう。
ただし、じっとしていても強くなる夜の痛みが続く、熱や体重の減少がある、しびれが進む、という時は、医療機関での確認を優先してください。大きないびきや睡眠中の呼吸の停止を家族から指摘された時も、医師に相談しましょう。
