本文ノート
認知機能的療法(Cognitive Functional Therapy:以下、CFT)は、痛みのある身体を丁寧に評価し、その痛みについての信念、恐怖、回避、頑張りすぎ、身体の固め方、睡眠、ストレス、仕事、家庭での役割、自己効力感を一つの臨床推論の中で考える方法です。O’Sullivanらは、CFTを、行動心理学と神経科学を理学療法の実践に統合した、柔軟で個別化された行動的アプローチとして説明しています。その土台は、患者ごとに、変えられる要因と変えられない要因を見分ける多次元の臨床推論です1。
CFTの中心にあるのは、「この患者は、痛みをどう理解し、どの動きを危険と感じ、どの行動で自分を守り、その結果として生活で何ができなくなっているのか」という問いです。介入は、三つの柱で組み立てられます。一つ目は、患者自身の経験をもとに、痛みと障害を続かせている循環を一緒に言葉にする「痛みを理解する」過程です。二つ目は、怖くて避けている動作を、防御的な固め方を減らした状態で段階的に試す「制御しながらの曝露」です。三つ目は、活動量、睡眠、ストレス、社会的な関わりなどの「生活習慣の変化」です1。
CFTの根拠は、個別化した理学療法のアプローチとしては厚い方です。7件のRCTを統合した2024年の系統的レビューでは、CFTは通常ケアを含むほかの介入と比べて、短期・中期・長期の障害を減らし(確実性は低〜中)、短期・中期の痛みを減らし、長期の痛みもおそらく減らすと評価されました。痛みに関する自己効力感を中期・長期に高めることには、高い確実性の根拠がありました6。同じレビューは、試験ごとにセラピストの訓練と実施の方法にばらつきがあり、それが結果の違いに関わっている可能性も指摘しています6。
CFTは身体から入るアプローチです。曲げる、持つ、座る、歩くといった身体の動作の中で、身体反応と考えと感情が同時に変わる経験を作ります。
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主なRCTの結果
最初のRCTは、ノルウェーのVibe Fersumらの試験です。慢性腰痛の121名を、分類にもとづくCFTと、徒手療法と運動の組み合わせに割り付けました。12か月後、障害の尺度(Oswestry Disability Index)はCFT群で13.7点、徒手療法と運動の群で5.5点改善し、痛みの強さはそれぞれ3.2点と1.5点改善しました2。
アイルランドのO’Keeffeらの多施設RCTでは、206名を、CFTと、グループでの運動・教育に割り付けました。CFTは6か月と12か月の障害をより大きく減らしましたが(平均差はそれぞれ8.65と7.02)、痛みの強さには群間差がありませんでした3。CFTの結果は、比較対照と評価項目で変わります。
オーストラリアのRESTORE試験は、20の一次医療の理学療法クリニックで、慢性で障害度の高い腰痛の492名を、通常ケア、CFTのみ、CFTと動作センサーによるバイオフィードバックの3群に割り付けました。CFTの2群は、12週間で最大7回の治療と26週での追加の1回を受けました。13週時点の活動制限(24点満点のRoland Morris障害質問票)は、CFTのみで平均差−4.6、CFTとバイオフィードバックで−4.6と、どちらも通常ケアより少なく、効果の大きさは52週でも同程度でした。質調整生存年もCFTの方が多く、社会的な費用は通常ケアより少ない結果でした4。3年後の追跡では、活動制限の平均差はCFTのみで−3.5、CFTとバイオフィードバックで−4.1、痛みの強さの平均差は−1.0と−1.5で、どちらも通常ケアより良い状態が続いていました。バイオフィードバックの上乗せは有意ではありませんでした5。
結果を読む時の注意
RESTORE試験では、セラピストも患者も割り付けを知っていました4。運動や教育の試験では避けにくい限界ですが、自己記入式の評価項目では、期待が結果に影響する可能性があります。また、3年後の追跡に参加したのは492名のうち312名で、各群の約6割でした5。系統的レビューは、CFTの効果を得るには、訓練を受けた臨床家の数、経験、訓練の質(能力の評価を含む)が重要かもしれないと述べています6。「CFTという名前の介入をすれば同じ結果になる」とは言えず、評価と対話と曝露の設計の質が結果を左右すると考えられます。
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何が変わることで良くなるのか
RESTORE試験の媒介分析では、CFT(327名)と通常ケア(165名)を比べ、早い段階での自己効力感、恐怖、破局的思考、痛みの強さの変化が、治療終了時と12か月時点の障害の改善を最大61%媒介していました。痛みの強さに対する効果も、自己効力感、恐怖、破局的思考の変化が最大62%媒介していました。著者らは、これらが効果的な生物心理社会的な治療に共通する仕組みである可能性を述べる一方、動き方の変化の役割はさらに調べる必要があるとしています7。
制御しながらの曝露を神経系から読む
「曲げると壊れる」と信じている患者は、曲げる前に腹部と腰部を固め、呼吸を止め、股関節を使わず、足趾で床をつかむかもしれません。この固め方は、神経系が危険を予測した時の保護的な運動の出力として理解できます。保護は一時的には役立ちますが、固めたまま動き続けると、筋の持続的な活動と脊柱の圧縮が増え、動くたびに「やはり危ない」という予測が強まる循環になりえます。
制御しながらの曝露では、怖い動作を、呼吸を続け、固める量を減らした状態で、小さな範囲から試します。予測していたほど痛みが出なかった、あるいは痛みが出ても動作をやり遂げられた、という経験は、神経系の予測と実際の結果のずれ(予測誤差)を生み、危険の見積もりを書き換える材料になります。媒介分析で恐怖と自己効力感の変化が効果の一部を説明していたことは、この過程と整合しています7。
どこまで扱い、どこから連携するか
CFTには、自分がどこまで扱い、どこから他職種と連携するかを明確にする臨床の態度も含まれます。強い抑うつ、希死念慮、トラウマ、ドメスティックバイオレンス(Domestic Violence:以下、DV)、依存などが疑われる場合は、医師や心理職との連携を前提にします。重い病態の可能性(進行する神経症状、発熱、がんの既往、外傷など)は、CFTの評価の前に確認します。RESTORE試験も、骨折・感染・がんなどの重い脊椎の病態のある人を対象から除いていました4。
CFTで扱う20項目
| 1. 痛みの物語 | 発症、再発、受けた説明、画像所見、家族や職場の反応を含めて聞きます。 |
|---|---|
| 2. 損傷の信念 | 「動くと壊れる」「骨がずれている」「一生治らない」という理解が、動作、呼吸、荷重、回避にどう表れるかを確認します。 |
| 3. 恐怖 | 怖い動き、怖い姿勢、怖い生活場面を具体化します。 |
| 4. 回避 | 避けている動作だけでなく、避けた結果できなくなった生活の行動を見ます。 |
| 5. 頑張りすぎ | 調子の良い日に頑張りすぎて、翌日に症状が強まる循環を確認します。 |
| 6. 防御的な収縮 | 腹部、腰部、殿部、股関節、足趾、肩・頸部の固め方を観察します。 |
| 7. 呼吸 | 息を止める、胸郭が動かない、腹部を過剰に固めるといった反応を確認します。 |
| 8. 動作の再学習 | 曲げる、伸ばす、立つ、歩く、持つ、座る動作を、安全を感じられる条件で練習します。 |
| 9. 段階的な曝露 | 怖い動作を小さく分け、角度、速度、荷重、時間を調整して試します。 |
| 10. 機能の目標 | 痛みゼロだけでなく、仕事、家事、育児、運動、外出など、取り戻したい行動を目標にします。 |
| 11. 自己効力感 | 患者が「自分で扱える」と感じられる手順を作り、その見込みの変化を追います。 |
| 12. 睡眠 | 痛み、警戒、回復、気分に関わるため、評価から外しません。 |
| 13. ストレス | 仕事、人間関係、経済的な不安、家族の役割が痛みの持続に関わることがあります。 |
| 14. 生活のリズム | 座っている時間、休憩、活動量、運動量、通勤、家事の負荷を見ます。 |
| 15. 身体の評価 | 可動域、神経症状、筋出力、感覚を確認します。身体の評価を省略しません。 |
| 16. 安全確認 | 進行する神経症状、炎症、外傷、感染、腫瘍、馬尾症状などは医療評価を優先します。 |
| 17. 専門職との連携 | 強い抑うつ、希死念慮、トラウマ、DV、摂食の問題、依存などは連携を前提にします。 |
| 18. セラピストの言葉 | 説明が恐怖を増やしていないか、患者の理解を固定していないかを確認します。 |
| 19. 再燃の計画 | 痛みが戻った時の活動量、運動、休息、相談の基準を決めます。 |
| 20. 足元と環境 | 立位や歩行で症状が変わるなら、靴、床の滑りやすさ、立ち方、作業台の高さも生活の条件として扱います。 |
CFTと近い考え方の違い
| CFT | 慢性腰痛を中心に、身体、信念、感情、行動、生活を個別化して統合し、身体の動作の中で再学習を進めます。 |
|---|---|
| PNE | 痛みの仕組みの理解を変え、安全に動くための理解を作ります。CFTの「痛みを理解する」過程でも使われます。 |
| CBT | 認知行動療法。認知、感情、行動の循環を扱います。CFTは、身体と機能的な動作の再学習をより前面に置きます。 |
| 運動療法 | 筋力や可動域に加えて、患者にとって意味のある動作を安全に取り戻す設計が必要です。 |
| 手技療法 | 痛みや防御的な収縮を一時的に下げる助けになりえます。CFTでは、その後にどう動くかまで扱います。 |
セラピストが見るべきこと
| 痛みの物語 | 何をきっかけに、どんな説明を受け、生活で何ができなくなったかを聞く。 |
|---|---|
| 信念 | 損傷、老化、姿勢、画像所見、骨盤、ヘルニア、筋力不足についての理解を確認する。 |
| 身体反応 | 動作中の固め方、呼吸、足趾の握り込み、腰部の固め方、荷重を避ける反応を見る。 |
| 怖さ | 痛い動きだけでなく、危険だと感じる動きとして聞く。怖さの程度を数字でも記録する。 |
| 自己効力感 | 「痛みがあっても、これならできる」と思える活動は何か。その見込みの変化を追う。 |
| 生活 | 仕事、家事、育児、運動、睡眠、休息、人との関わりを含める。 |
| 連携 | 心理職、医師、職場、家族、地域の資源が必要な場面を早めに見分ける。 |
臨床での使い方
慢性腰痛の初回では、痛みの場所だけでなく、痛みが生活で何を奪っているかを聞きます。座ること、靴下を履くこと、子どもを抱くこと、車に乗ること、仕事の終わりごろ、朝の動き出し。患者にとって意味のある行動を具体的に聞くほど、介入は具体的になります。
次に、身体の評価と動作の観察を行います。前屈、立ち上がり、歩行、片脚立ち、物を持つ動作で、患者がどこを固め、どこを避け、どの瞬間に怖さを感じるかを見ます。そのうえで、呼吸を続ける、足幅を変える、速度を落とす、視線を変える、腹部の力を少し抜く、といった条件の変化を一つずつ試します。それだけで反応が変わるなら、患者は「自分の体には変化の余地がある」と学び始めます。立位や歩行で症状が変わる患者では、靴や床、立ち方も条件の一つとして試せます。
観察した反応は、患者と一緒に言葉にします。「腰を曲げる前に、お腹と腰をぎゅっと固めて、息を止めていました。息を吐きながら少し力を抜いて曲げると、痛みはどうでしたか」と問い、患者の言葉で循環を確かめます。これが「痛みを理解する」過程です。
その後、生活の中で試す行動実験を小さく決めます。「明日は、息を吐きながら靴下を履いてみて、その時の怖さと痛みを0〜10で記録してください」のように、行動、条件、記録の方法を具体的に決めます。次回は、その記録から次の段階を一緒に決めます。痛みが戻った時に何を確かめ、何を調整し、いつ相談するかという再燃の計画も、早めに話し合っておきます。
CFTの進め方
| 1. 物語を聞く | 発症、診断、画像、言われた言葉、できなくなった活動、取り戻したい生活を聞きます。 |
|---|---|
| 2. 仮説を立てる | 信念、恐怖、動作、睡眠、ストレス、仕事、環境を組み合わせて、痛みと障害を続かせている要因の仮説を作ります。 |
| 3. 身体で確かめる | 怖い動作を観察し、呼吸、速度、荷重、視線、足元、安心感で反応が変わるかを見ます。 |
| 4. 一緒に言葉にする | 痛みを本人の実感として扱い、何が循環を保っているかを患者の言葉で共有します。 |
| 5. 行動実験を設計する | 安全に試せる動作、生活の課題、活動量を小さく決めます。 |
| 6. 生活へ移す | 治療室でできたことを、仕事、家事、歩行、運動へ移します。 |
| 7. 再燃を扱う | 痛みが戻った時に何を確認し、何を調整し、いつ相談するかを決めます。 |
患者説明への変換
体の反応、痛みへの怖さ、動き方、生活の負担が重なると、痛みが続きやすい状態になります。一つずつ分けて、体が安全に使える条件を一緒に探し、自分で扱える手順を増やしていきます。
患者には、痛みを疑っていないことが伝わる言葉を選びます。「痛みは本物です。そのうえで、痛みを長引かせている条件の中には、一緒に変えられるものがあります」と伝えると、評価と練習の目的が共有できます。
固め方について話す時は、守ろうとする体の働きとして伝えます。「腰を守ろうとして固めるのは、短い間なら自然な反応です。ただ、その守り方が長く続くと、動きの選択肢が少なくなります。安全に試せる動きから、少しずつ選択肢を増やしましょう」と話します。
目標は、痛みをゼロにすることだけではないことも共有します。「仕事、家事、歩くこと、趣味の中で、痛みが出ても自分で落ち着かせる手順を持つことを目指します。治療室でできたことを、生活の中で再現できる形にしていきましょう」と伝え、患者自身が選ぶ行動実験から始めます。
