本文ノート
認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy:CBT)は、1960年代にBeckが開発した心理療法で、考え、感情、身体の反応、行動が互いに影響し合うという認知モデルに基づいています。うつ病、不安症などの精神疾患に加えて、線維筋痛症、不眠、片頭痛やそのほかの慢性痛でも有効性が確かめられてきました8。慢性痛に対するCBT(CBT-CP)は、この枠組みを痛みにあてはめ、痛みを消すことではなく、痛みが生活に及ぼす影響を減らすことを主な目的にします。過去30年ほどの間に、CBTは慢性痛に対する心理社会的治療の第一選択の一つとなり、多くのランダム化比較試験で、さまざまな慢性痛の痛みと痛みに関連した問題の改善が示されてきました3。
米国退役軍人省(VA)は、CBT-CPの目標として、意味のある活動への参加を増やすこと、痛みの再燃によりうまく対処すること、痛みの強さを和らげること、痛みや損傷が増えることへの心配を減らすこと、生活の質を高めることを挙げています7。そのための手段として、見通しの立て方を整える、活動を増やす、考え方を整えるといった自己管理の技能を身につけていきます7。
CBTを薄く使うと「考え方を変えましょう」という励ましで終わります。本来のCBTは、どの場面で、どんな考えが浮かび、身体がどう反応し、どんな行動になり、その結果として何が維持されているのかを、患者と一緒に観察し、変えられるところから計画的に変えていく方法です。痛みの強さだけでなく、生活機能、気分、自己効力感を目標に含める点が特徴です。
CBTそのものは、訓練を受けた心理職などが行う治療です。一方、CBTの原理を取り入れた介入を心理職以外の医療者が行う方法も有望とされており3、セラピストの日常臨床にも深くかかわります。このページでは、CBTの中身と根拠を知ったうえで、セラピストがどこまでを担い、どこから専門職と組むかを整理します。
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効果の大きさ
成人の慢性痛(頭痛を除く)に対する心理療法のCochraneレビュー(2020年)は、75件の試験、治療終了時9,401人を分析しました。CBTは最も根拠の多い治療で59件の試験がありました。CBTを能動的な対照(ほかの治療)と比べると、治療終了時の痛み(SMD -0.09)、障害(-0.12)、心理的苦痛(-0.09)にごく小さな利益があり、根拠の質は中等度でした。通常治療と比べると、痛み(-0.22)、障害(-0.32)、心理的苦痛(-0.34)に小さな利益があり、この効果はおおむね追跡期間まで維持されていました。根拠の質は中等度から低いものでした1。
数字が示すのは、CBTが「痛みを大きく取り除く治療」ではなく、痛み・障害・苦痛を小さく、しかし比較的一貫して減らす治療だということです。どの患者でより効果が大きいのかを探ることが今後の課題とされ、有害事象の報告は不十分でした1。
同じレビューで、行動療法単独とACTの根拠は質が低く、効果の有無について非常に不確かだと評価されています1。ACTの別のメタ解析では、対照と比べて痛みの受容と心理的柔軟性に中〜大、機能・不安・抑うつに小〜中の効果が見られましたが、痛みの強さと生活の質には有意な差がありませんでした4。
ガイドラインでの位置づけ
英国NICEの慢性痛ガイドライン(NG193、2021年)は、16歳以上の慢性一次性疼痛に対して、適切な訓練を受けた医療者によるACTまたは痛みに対するCBTを検討するよう推奨し、監督下の集団運動プログラムの提供も推奨しています。一方、バイオフィードバックは提供しないこととしています2。この推奨は慢性一次性疼痛(明らかな原因疾患で説明できない、または苦痛や障害が所見と釣り合わない慢性痛)を対象としたもので、すべての慢性痛にそのまま当てはめるものではありません。
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CBT-CPの構成要素
慢性痛のCBTは、いくつかの要素を組み合わせて行われます。痛みの仕組みとCBTの考え方の説明、具体的な目標の設定、リラクセーション、活動のペーシングと段階的な活動の増加、考えの点検と置き換え(認知再構成)、問題解決、睡眠の調整、周囲とのコミュニケーション、再燃への備えなどです3。
認知再構成では、自動思考を拾い、そこに見られる偏り(全か無か思考、過度の一般化、破局視など)を確かめ、事実・予測・解釈を分けて、より役立つ見方を作ります。ここで大切なのは、考えを無理に前向きにすることではなく、考えを検証可能な仮説として扱うことです。検証には、話し合いだけでなく、行動実験という形で身体を使った経験が用いられます。
心理的要因に配慮した実践
理学療法の分野では、通常の生物医学的な理学療法と、精神疾患の治療から発展した認知行動的アプローチの「中間の道」として、心理的要因に配慮した実践(psychologically informed practice)が提案されています。経過不良のリスクにかかわる心理社会的要因(イエローフラッグ)を日常的に評価し、治療の進め方を調整することで、痛みに伴う不要な活動制限を防ぐことを主な目的とします5。この実践は、痛みの知覚と反応に影響する心理的過程を、筋骨格系の痛みの経験の一部として生じる正常な過程とみなし、変えうるものとして扱います5。
この考え方を検証した代表例がSTarT Back試験です。腰痛患者を予後リスクで低・中・高に分け、高リスク群には心理的要因に配慮した理学療法を行う層別化ケアは、通常のケアと比べて、障害(Roland-Morris質問票)の改善が4か月時点(効果量0.32)、12か月時点(0.19)で大きく、生活の質の向上と費用の削減も示されました6。効果は小〜中程度ですが、身体の専門職が心理社会的要因を評価し、その評価に合わせて進め方を変えることに意味があることを示しています。
セラピストが見るべきこと
| 循環の把握 | 痛み、考え、感情、身体の反応、行動、結果を一つの流れとして聞き取り、どこが維持因子になっているかを探します。 |
|---|---|
| 目標 | 痛みゼロだけを目標にせず、歩行、睡眠、仕事、家事、趣味、人との関わりなど、生活機能の目標を本人と一緒に決めます。 |
| イエローフラッグ | 痛みは害であるという信念、恐怖と回避、気分の落ち込み、受け身の対処、仕事の問題などを確認します。STarT Back Toolなどの質問票は、リスクを整理する手がかりになります。 |
| 再燃への備え | 痛みが増えた時の手順(量を下げる、休み方、相談先、受診すべきサインの確認)を決めているかを確認します。 |
| 専門職への紹介 | 強い抑うつや不安、希死念慮、外傷体験に関連した強い反応、物質の問題、生活が保てないほどの苦痛がある場合は、医師、公認心理師・臨床心理士などへの紹介を優先します。 |
| 身体の評価 | 心理社会的要因の評価は、身体の評価とレッドフラッグの確認に置き換わるものではありません。神経症状の進行や全身症状があれば医療機関での評価を優先します。 |
臨床での使い方
循環を一緒に書き出す
最初に、痛みの循環を患者と一緒に書き出します。「痛みが出る」「壊れたと思う」「不安が上がる」「動かない」「体力が落ちる」「次がもっと怖い」。この流れが見えると、患者は自分の痛みを責めるのではなく、変えられる点を探せるようになります。
変数を一つだけ変える
次に、変える変数を一つだけ決めます。歩く時間を変える、休憩を先に入れる、速度を落とす、翌日の記録を取る。複数を同時に変えると、何が結果に影響したのか分からなくなります。行動実験は小さく、具体的で、元に戻せる形にします。
予測を検証する
「動いたら悪化する」という予測を、「この条件で行ったら何が起こると思うか」として書き出し、実際の結果と比べます。結果は成功か失敗かではなく、次の計画を決める情報として扱います。痛みが少し出ても、予測していた害が起きなかったことは重要な情報です。
再燃時の台本を作る
痛みの波に備えて、再燃時の言葉と手順を準備します。「反応が強い日だ。量を半分に下げ、受診が必要なサインがないかを確認し、2〜3日の戻り方を見る」。前もって手順があると、痛みが増えた時に慌てて全部をやめる、あるいは無理を重ねる、という両極の反応を減らせます。
セラピストの範囲を言葉にしておく
セラピストが担うのは、身体の評価、痛みの仕組みの説明、目標設定、段階的な活動、行動実験の設計、再燃時の手順づくりです。認知再構成を中心とした本格的なCBT、抑うつや不安障害、PTSDの治療は、訓練を受けた専門職が行います。紹介する時は「ここでは対応できない」ではなく、「痛みと生活の負担が大きいので、支える専門家を増やしたい」と伝えると、患者が見放されたと感じにくくなります。
患者説明への変換
痛みがある時の考え、体の反応、行動がどうつながっているかを一緒に見ます。痛みに振り回されにくい手順を作り、生活を少しずつ戻すための一歩を決めましょう。
痛みが出ると、「また悪くなる」という考えが浮かび、不安になって体に力が入り、動くのをやめる、という流れが起きやすくなります。この流れは誰にでも起こる自然なものですが、長く続くと、できることが減り、次の痛みがもっと怖くなっていきます。
今日は、この流れの中で変えられるところを一つ選びます。考えを無理に前向きにするのではなく、「本当にそうなるか」を小さく試して確かめます。うまくいかなかった時も、それは次の計画を決めるための情報です。
痛みと一緒に、気分の落ち込みや眠れない日が続いている時は、心理の専門家と一緒に進める方法もあります。痛みの治療をやめるのではなく、支える人を増やすための選択肢として考えてください。
