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COVID-19の筋骨格系への影響|ウィルスによって人の筋肉はどう変わるか

今回取り上げる論文は、2002年に流行したSARSと比較しながら、筋肉や骨格に対して感染症がどのように影響を及ぼすかを観察したものです。この論文によってその全てが明らかになるわけではなく、あくまで今わかっていることと仮説の話に過ぎないことを前提に、内容をまとめていきます。それでは始めましょう。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7508274/

筋肉や骨格の後遺症についての比較

パンデミック以前のインフルエンザや肺炎、また高熱を伴う風邪感冒などで体力や筋力の低下は確認されていました。SARS-CoV-2は、重症急性呼吸器症候群(SARS)の原因となるSARS-CoV-1と近縁にあります。どちらのウイルスも呼吸器系に感染し、筋骨格系を含む複数の器官系に直接・間接的に影響を及ぼします。SARS-CoV-1とSARS-CoV-2感染に対する病理反応の間に高度な類似性があることが示されていため、これらを比較することで、今後起こりうる後遺症を予測していきます。

SARSの疫学データでは、筋痛、筋機能障害、骨粗鬆症、骨壊死が、この病気の中・重症患者によく見られる後遺症であることが確認されています。初期の研究では,COVID-19の一部の患者にもかなりの筋骨格系の機能障害があることが示されているが、長期的な追跡調査はまだ行われていません。

中等度から重度のSARS感染患者からの研究により、骨格筋、神経、骨、関節の障害など、この病気による筋骨格系の負担がかなり大きいことが示されています。また、長時間の人工呼吸器使用は、筋肉や骨の脆弱化につながる炎症性状態を誘発し、全体的なQOLを低下させることが知られています。

 

感染による炎症は筋肉や骨を弱らせる

炎症についての知識を少し補充します。風邪をひいて喉が腫れる際も、筋肉が傷ついて腫れる際も、同様に免疫系が活動します。免疫系では今身体のどこで何が起きているかを伝達する情報物質としてサイトカインという物質が使われます。サイトカインは研究が進むにつれて、種類や作用が徐々に解明されてきています。

SARS-CoV-1やSARS-CoV-2の感染すると様々のサイトカインが放出されます。その中には筋肉や骨、軟骨を破壊するものが存在しラットの実験では軟骨や筋肉の表面にそれらのサイトカインが多く確認されています。

これらのサイトカインは細胞の破壊を誘発して、そこからウィルスに打ち勝つために必要なミネラルや栄養を血中に充実させる目的で活動しています。それによって筋骨格は弱くなります。

感染患者の機能的能力の低下は、健康関連のQOLのいくつかの指標の低下と対応していました。職業的な影響もあり、急性期から2〜3ヵ月後までに職場に復帰した患者は40%にとどまりました。

SARSのモデルマウスでは、感染後4日以内に、体重が20%急速に減少した記録もあります。

感染後の筋細胞の状態

死亡したSARS患者から死後採取した筋肉組織を用いたいくつかの小規模な研究により、SARS-CoV-1感染による筋肉機能障害の本質に関する知見が得られています。

広範な筋繊維の萎縮が認められ、散発的かつ局所的な筋繊維の壊死と免疫細胞の浸潤が見られました。電子顕微鏡写真では、筋原線維の乱れが認められ、力の伝達が阻害されることが予想されます。

神経細胞の脱髄もSARS患者において報告されており、これも筋力低下と疲労の一因と考えられます。

まとめ

SARSに限らず前述したような後遺症はパンデミック以前から存在していたインフルエンザや風邪感冒の症状でも同様なものであることも指摘されています。

最近のSARS-CoV-2感染レポートでは呼吸器系の後遺症より、皮膚や筋肉、精神的な後遺症の方が多く報告されています。それらがSARS-CoV-2に限ったものかどうかは定かではなく、今後の長期間の研究がなければ確認することはできません。

ただ今回の研究に関係なく、重度の炎症は筋肉や骨格を著しく弱化します。炎症を兎にも角にも抑えることを念頭に置いてこれらの感染症と向き合うべきです。