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シンスプリントの原因を探る|骨の中心まで炎症が広がっていた症例を紹介

シンスプリントは脛の内側に起こる炎症を指します。原因は後脛骨筋という筋肉の付着部に過剰に伸長力が加わることで起こるとされています。教科書にはそのように書いてるのですが、いざ臨床に立つとそういったケースは半分ほどでもう半分は別の原因で起こります。

今回は臨床一年目にみた症例を紹介します。この記事では「教科書やネットの記事を鵜呑みにするべきでない」ということが伝われば良いなと思っています。それでは始めましょう。

シンスプリントとは

シンスプリントはスポーツに真剣に取り組む学生によく発症する障害です。ひどい場合は疲労骨折に発展する場合があるので早期発見が大切です。脛骨という脛の骨の下半分の内側に痛みが起こります。

急なダッシュやストップの際に痛むことが多いです。

冒頭で述べた通り、後脛骨筋の身長力によって付着部が炎症することが昔から言われている原因です。しかしその原因で起きているの全体の半分程度です。もしかするともっと少ないかもしれません。

私も臨床に立った初期の頃はこの筋肉にストレッチをしたりマッサージをしたり、超音波をかけたりと治療を行なっていましたが、どうも治療成績が悪く原因が別にあるのではと考えるようになりました。

特殊な脛骨の痛みの症例との出会い

そんなある日、シンスプリントの症状を呈した16歳の女性が例によって治療に難航していた時、MRIによる検査で骨の炎症を確認したところ、骨の中心部まで深く炎症しているのを発見しました。

後脛骨筋による炎症とばかり思っていた私はその結果に驚愕しました。筋肉による伸長力で炎症するなら、骨の表面までの炎症に留まるはずです。この女性の場合は脛骨の中間から下が全体的に炎症していたのです。その結果を確認してからというもの、当時勤めていた病院ではシンスプリントの患者様は毎回のようにMRIを確認することになりました。

 

バイオメカニクス(生体力学)の研究の重要性を知る

人体には複雑な物理的作用が常に加わっています。歩くときや立っているとき、寝ている時にも、重力の影響によって何かしらの力学的な計算式が体全身に成立しています。

シンスプリントの特異な例は、人体の多様性を私に教えてくれました。その女性の場合、脛骨に対して捻り方向への回旋力が加わりやすい体質であることが後の検査でわかりました。インソールを使用し、特殊なトレーニングを繰り返すことで回旋力を足首で相殺できるようにすることで症状は寛解していきました。

「人体について人類がわかっていることは2%以下だ」

私に生理学や物理学を教えてくれた大先輩の言葉が今も私を心地よく苦しめてくれます。

この世の全ての人体に関する本を読もうとも、人体についての2%も理解できないのです。今わかっていることも明日には覆る可能性があります。常に多様性に富んだ考え方を念頭におきながらアップデートを繰り返し、なおそれを楽しむことができると人生の幸福度は高まると考えています。これが私の思う科学であり、文化人であり続けるための秘訣なのです。