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産後の骨盤の話|出産による歪みや筋膜の癒着、腰痛の原因を解説します。

妊娠、出産を終えた女性の体にはたくさんの異変が起こります。もちろんその症状に個人差があります。慢性的な腰痛などの不調に悩まされることもあれば、何の不快感も痛みもなく妊娠前の状態に戻る人もいます。

今回は過去の症例を紹介しながら、出産を経験した女性特有の骨盤の話をします。原因のわからない腰痛などに悩まされていたり、近くにそういった知人がいるならばこの記事が役に立つかもしれません。それでは始めます。

産後に多い骨盤周辺の異変
  1. 骨盤の歪みや開き(骨などの硬い組織の異変)
  2. 筋膜とその他の組織の癒着(筋肉などの柔らかい組織の異変)

大きく分けると上記の二つに分けられます。典型的な産後の腰痛に悩まされていたSさんのケースをベースに解説していきます。

Sさんの場合

2度目の出産から3年が経過。症状は腰痛、肩こり、胸の痛み、首の痛み、臀部の痺れ、足の痺れ、前腕から手の指にかけての痺れ、そして軽度の産後うつのような状態で体の痛みから睡眠もうまくとれない状態でした。

触診したところ骨盤周辺は以下のような状態でした。

  1. 右の骨盤が後方に傾いている
  2. 仙骨が反時計回りに回旋している
  3. 仙骨と骨盤からなる関節周辺の皮膚が石のように固まって動かない
  4. 腹圧が上がらない(腹部インナーマッスルが動いていない)

大きな異常は上記です。続いて細かい小さなものリストアップします。

  1. 大腿骨と梨状筋間での坐骨神経の癒着
  2. 骨盤の上部(腸骨稜)付近での上殿神経の癒着
  3. 胸郭下部での腹筋の損傷後の周囲組織との癒着
  4. 右大腿部内側では伏在神経と内転筋間の癒着

最も問題であったであろう部位のもをピックアップしてあります。足の先まで関節や筋肉に異常があり、正常な場所を探す方が難しいほどでした。

実施した治療の手順

Sさんは私が整形外科に勤めていた時の患者様で、初期はドクターや先輩たちとともに40分間の時間の中で神経をリリースしていきました。最初に神経にアプローチした理由は、神経の支配下にある筋肉の収縮をできる限り正常に近づけ、日常生活での腹圧や姿勢をキープする筋力を担保するためでした。

重心の位置を調整するためにインソールも作製しました。

1ヶ月ほど自費の治療も含めて週に2回の治療を重ね、手足の神経症状(痺れなど)が減退していき、徐々に睡眠を取れるようになってきました。

続いて適度な腹圧をキープできるように肋間神経のリリースと胸郭の柔軟性を上げるためのモビリゼーションを指導しました。腹部のインサーマッスルはほぼ機能しておらず、この治療は難航しました。腹圧がキープできるようになるのにさらに1ヶ月ほど要しました。この2ヶ月の間も少しずつ骨盤の歪みをとるためのリリースや矯正を加え続け、姿勢は徐々に整っていきました。

治療の終盤

半年ほどの治療の結果、症状は消失し産後うつも解消していました。本人が最後に語ってくれた嬉しかったことは「体重が5キロくらい減った」ことだったそうでした。

私の経験の中でも特に症状が重いものでした。本人が最後まで諦めなかったこと治療がうまくいった理由であったと思います。この方のおかげで産後の治療に自信が持てるようになり、以後の私の治療は変化しました。

いつも我々医療者の先生は患者様であることを痛感した症例です。